第23章 岩柱のお屋敷
「優しいですね、悲鳴嶼さん。私は全然無理してませんよ。できることしかしてませんし。実弥さんのお屋敷でもしていた事ですから。場所が変わっただけで、していることは変わってないんですよ」
笑いながらそう言えば、何故か悲鳴嶼さんの大きな手が私の頭をゆっくりと乗せられる。
突然の行動に、どうしたらいいか分からず、そのままの状態で固まっていると、それを察したかのようにゆっくりと悲鳴嶼さんの手が離れて行った。
「…すまない。立ち話が長くなったな。部屋で話そう。道具はそのままでいい。ついてきなさい」
「はい」
さっきの意味不明な行動を気にしつつも、雑巾は水桶にかけて、悲鳴嶼さんの後ろを小走りでついて行く。
前回は座った状態で会ったからあまり気にならなかったけど、悲鳴嶼さんは本当に大きい。
現代でもこんなに大きな人に会ったことはない。立って話すと、顔は殆ど見えなかった。
あとはこの歩き。一歩も私の二歩三歩分あるんじゃないかと思う。足の短い私は、速歩きというより、小走りになっているかもしれない。
悲鳴嶼さんという人物を知っていなければ、この身体の大きさだけで恐縮してしまいそうだ。
部屋に着くと、悲鳴嶼さんから座るように言われ、促されるがままに、畳に腰を下ろす。
前回来た時の緊張感を思い出し、ふいに背筋がスッと伸びる。
「さて、まずは三井の今後だ。とりあえずはこの屋敷にいてもらうことになった」
「とりあえず、ですか?」
前回よりは言葉が優しい分、とりあえず、という言葉に引っ掛かりを覚え、つい聞き返してしまった。
「あぁ。お館様には何か考えがおありなのだろう。当分の間、うちで面倒を見て欲しいと言われた。ここは住むには不便だし、私も長期に空ける事も多いからな。長く生活する事は難しいと思っている」
お館様のことだから何かあるんだろう。とりあえずだけど、身の振り方が確定したことで気持ち的に落ち着けるから、いい。とりあえずは、今後どうにかなるだろうし。
「お館様のお考えは分かりませんけど、とりあえず分かりました。すみません、お世話になります」
とりあえず、が多くなるなぁ、とは思いつつ、でもとりあえずはお世話になるからと悲鳴嶼さんにはしっかりと頭を下げてお願いしておく。