第23章 岩柱のお屋敷
よし、切り替わった。
さぁ、やることを、できることをするぞ。
プラスの気持ちはプラスを呼び込む筈だ。だから、信じて進むしかない。
過去には戻れないし、戻る気もない。
パチン!
「よしッ!」
気合いを入れる為に頬を自分で叩く。
単純だ、これだけで気合いが入って気持ちも切り替わる。
これから何回お世話になることだろう。
そんな事を思いながら中断していた作業を再開する。
それから少しして、玄弥くんも食べ終えた食器を持ってきた。
「玄弥くん、悲鳴嶼さんが帰ってくるまで、掃除とか洗濯とか、させてもらってもいい?」
「…何度も言うが、お前は客だぞ」
「だけど、やることなくって。かといって、昼ご飯を作ったとしても、すぐに作り終えちゃうし。どこかに行っても私たぶん迷子になるし」
「じゃあ、部屋好きな事でもしてたらいいだろ」
「その、何かがないのよ。あ、裁縫道具を貸してくれれば、繕い物とかできるよ」
「…」
「玄弥くーん!聞いてる?」
「煩いッ!ってか、本当に面倒くせぇッ!ついてこい。教えてやる。後は勝手にしろよ」
「ありがとう」
ズカズカと廊下を歩いていく玄弥くんに着いていく。
口は悪かったけど、掃除も洗濯も分かりやすく教えてくれた。とりあえず掃除は共用部分だけだ。部屋はしない。
気をつけるとことかは本当丁寧に教えてくれる。
優しい部分はやっぱり実弥さんに似ている。
何となく面影を求めている自分に気づいて、フルフルと頭を振る。
「大丈夫かァ?」
私のおかしな動きに、見るからに怪訝そうな顔で尋ねられる。
「大丈夫だよ。ありがとう」
「とりあえず言ったことは守れよ。じゃなきゃ、すぐに出てってもらうからな」
「はーい。わかりました」
「何だよ、その間の抜けた返事は。俺は稽古してるけど、何か分かんなかったらすぐ聞けよ」
怪訝そうな顔をしながらも、言っている事は何だかんだで優しい。
「うん。私の我儘きいてくれてありがとうね」
「くれぐれもッ、余計な事はすんなよッ!」
眉間に皺を寄せて、すごく強調する。
玄弥くんの姿が見えなくなってから、ふと思う。
ん?何か私、信用ない?
すっごく念押しされたんだけど。
「ふふっ」
何だか、笑いが込み上げてきた。
うん、笑える。笑えてる。
笑えるなら、大丈夫だ。