第22章 兄と弟
お風呂の温かさに、気持ちが緩んだのだろう。だけど、自分が気づかないうちに涙を流すなんて、初めてだ。
気を張っていたけれど、まさか気持ちが切れた途端、こんなになるなんて、全く想像もしていなかった。気を抜いたら泣きそうだという感覚はあったけど、まさかの出来事に驚きが隠せない。
だけど、お風呂で良かった。玄弥くんには絶対に見せられない。不幸中の幸いとはこういうことだろう。
やはり実弥さんからの言葉は、かなり辛かったのだと、思い知らされる。
周りを見渡せば、当たり前ながら実弥さんの屋敷での見慣れた景色と違っていて。
それが実弥さんの屋敷を追い出されたという事実を突きつけてられているようで。
それを思い知るたびに、胸が押しつぶされそうになって。
また涙が溢れてしまいそうになって。
それを隠すかのように、また音を立てて顔を洗う。
「上がらなきゃ。逆上せちゃう」
気持ちを切り替える為に呟けば、思いの外声が響き、気持ちを切り替えさせてくれる。
その言葉に乗せられたように、お風呂から上がる。身支度を整えて、玄弥くんの部屋に向かう。
「玄弥くん、お風呂、お先に頂きました。ありがとう」
「あぁ」
銃の手入れ中だった玄弥くんは、一瞬だけこちらを見て、すぐに視線は銃に戻る。
「じゃあ、おやすみ」
返事は、ない。うん、期待もしてない。そうだろうと思った。
そんな所が可愛く感じるのは、やっぱり何となく反抗期の子どもに似ているからだろうか。
私の子どもはそういえば、いくつだっただろうか。
一番上は男の子だったけど。
自分の子どもなのにと、思うけど、靄がかかったみたいで、思い出せない。日に日に、現代での事がどんどん曖昧になっていく。
そんな事を考えていたからか、やっぱり部屋には一回では戻れなかった。元々の方向音痴のせいなんだろうけど、今日は考え事をしていたからと、変に自分を肯定するのだった。