第22章 兄と弟
「とりあえず連れてく。だけど、後は勝手にしてくれ。歩き回っても大丈夫だ。勝手に他の部屋に入ったり、物を取ったりしないならな」
小さな子に対して言い聞かせるような物言いに、何だか笑いがこみ上げてくる。
「しないよ。ありがとう。じゃ、それ洗うよ」
お盆を取ろうとした私の手は、空を切った。
「これは俺が洗うから、先に風呂だ。ほら、さっさとついてこい」
「はーい」
玄弥くんはお盆を置くと、すぐに部屋に足を向けた。私はそれについていく。一度通ったからか、何となく覚えていた。お風呂からの帰りは多分大丈夫だろう。
入浴の準備を整えれば、すぐに風呂場に案内してくれた。途中で、厠の場所や悲鳴嶼さん、玄弥くんの部屋も教えてくれた。
情報過多だけど、文句なんて言ってられない。
「ありがとう。上がったら声かけるね」
そう言って風呂場に入る。急いで服を脱いで浴室を覗けば、見慣れた景色が広がる。実弥さんのお屋敷と違ってたらどうしようかと不安だったが、大きく変わりがなさそうで安心した。
急いで洗って、湯船に浸かる。急ぐ必要は全く無いのだろうけど、何だか後に人が待っていると思えば、焦ってしまう。
悲鳴嶼さんのお屋敷は山の奥で、実弥さんの屋敷のある場所に比べると寒い。季節が進んでいるのを実感する。朝晩は冷え込むのだろう。湯船に浸かっていれば、じんわりと手足が温まっていく。気づいていなかったが、冷えていたようだ。
「ハァ。気持ちいい」
自然と声が漏れる。ゆっくりと手を組み、グッと伸びをする。固まっていた体がゆっくりと解れていく感じがする。
それから少しして、頬に違和感があり手を伸ばす。
「濡れてる?えっ?!」
一度拭ってもまだ続く違和感に、涙が頬を伝っている事にようやく気づく。
やばい、やばい、やばい。
頭の中はちょっとしたパニックだ。とりあえずバシャバシャと音を立てて顔を洗う。顔を拭えば、もう頬を濡らすものはない。