第22章 兄と弟
「お前、とりあえず今は客だからな。飯は作ってもらったけど、客だ。先に入れ。後から入ったら掃除までするつもりだろ」
「えー。全然していいんだけど」
「だから、客だッ!文句言うなら、追い出すぞ」
言うことを聞かない私に、追い出すという最強ワードを出してきた。
そう言われれば、私に逆らえる訳がない。
「いえ、すみませんでしたッ。遠慮なく、先に入らせて貰います」
「分かればいい」
腕は組んだまま。苦々しい表情はなくなったけど、眉間の皺は寄ったままだ。そんな玄弥くんに、追い打ちをかけるようなお願いをする。
「とりあえず、お部屋に連れてって貰って、その後お風呂にも連れてって貰えるかな?」
「アァッ?部屋は分かるだろうがッ!」
思った通りの反応に、何となく安心感が広がる。やっぱり兄弟だ。
「いや、分からなくてね」
緩んでしまった表情のまま正直に答えれば、それに相反するように玄弥くんの眉間の皺は寄っていく。
「ハァ?じゃ、飯はどうしたんだよ」
「え?ご飯?そこに座って食べたよ」
先程まで座っていた場所を指さしながら説明する。だけど、今の流れから、何でご飯の話が出てきたのだろうか。
「…嘘だろ?」
愕然とする、とはこういう事なのだろうか。あまり見ることのない玄弥くんの姿に、漠然とその言葉が頭に浮かぶ。
「いや、嘘言ってどうするの?本当によく分からないのよ、私。勝手にお屋敷の中、歩き回っても大丈夫?」
「…アァッ!本当に面倒くせぇな、お前」
かなりの間が空いたけど、何とか調子を取り戻したらしい。
頭をガシガシしながら言うのは、不死川家の癖みたいなものなのかな?何だかんだで優しいのも、同じだ。
お母さんが愛情いっぱいに育てた証拠なのだろう。
だからこそ、私の返せる言葉は一つしか浮かばなかった。
「ごめんね」
そう呟けば、どこからか吹いた風が、私の頬をかすめた気がした。