第22章 兄と弟
「それと、朝御飯はいつもどうしてる?悲鳴嶼さん、帰ってきてから食べてる?準備しようかと思うけど」
実弥さんとはまた違うだろうと思って確認する。流石にお腹が空いて帰ってくるのか、とりあえず寝ちゃうのか。
「…いつもは夕食を多めに作って、朝は残りを食べてる」
眉間に皺を寄せて、そう答える。何だか返答内容が少ない気がするけど、まぁ朝も食べてるようだし、それだけでも分かればいい。
本当に苦手なんだろうけど、頑張って作ってたんだろう。
「分かった。取りあえず夕食は実弥さんのお屋敷で作ってた感じで作ってみるね。それでまた量とか教えて」
「…あぁ」
その返事を聞いてから、食材が置いてある一角に向かえば、後ろから声がかかる。
「じゃ、俺は風呂を沸かしてくる」
「ありがとう。よろしくね」
風呂を沸かすのは結構な重労働だ。まだ慣れていないから、それをしてくれるのはありがたい。振り向いて玄弥くんにお礼を伝えたけど、こちらを振り向くことはない。
「…ん」
だけど、返事はしてくれた。本当に小さな声で。周りが静かだから何とか聞き取れたけど。
返事をした本人は、案内された部屋とは反対側の廊下を進んでいく。その背中を追っていたが、すぐに見えなくなった。
「さぁ。急いで作ろう」
声を出し、動き始める。使える食材は一ヶ所に集められているようだ。山の中だからか、保存がきくような芋類が多い。葉や泥がついたままの大根もあった。もらったばかりなのだろう。
その辺りを探せば、お米も見つかる。
炊飯の準備をしつつ、その合間にさつまいもと大根を使って、煮物と味噌汁を作る。大根葉は彩りに少しだけ味噌汁に入れ、残りは大根の皮と炒めてもう一品作った。
いい匂いに、お腹がぐうっと鳴る。実弥さん、ちゃんと食べて行ってくれただろうか。
ふと外を見れば、ほぼ真っ暗だ。
「藤の花の香!」
この世界に来てから習慣となった、藤の花の香。少し探せば見つかった。火を灯せば、いつもと変わらない香りがまわりに漂い始める。
その匂いにつられてきたのか、玄弥くんが顔を出す。
「香の場所、良く分かったな」
「うん。少しだけ探したけどね」
玄弥くんはそのまま香を持って、屋敷の中に消えていった。