第22章 兄と弟
「ごめん。立てないから、ちょっと手を貸してもらえる?」
「アァッ!」
「本当にごめん。変な所にずっと力を入れてたから、体が言うことを効かないのよ」
「…ったく。本当に面倒ばかりかけやがって。ほら」
眉間の皺は深いし、すっごく嫌そうな顔をして、文句も言うけど、手を出してくれる。何だかんだで優しい。
「ありがとう」
出された手を取り、足に力を入れて立ち上がる。だけど、体勢を保てずバランスを崩してしまい、玄弥くんの腕に掴まる。
「おいッ!何やってんだよ」
私の手を振り払おうとしたけど、ギュッとしがみつく。ここで離されてしまっては、また座り込んでしまうのだ。
「本当にごめん。ちょっと待って。慣れるまで少しだけ掴まらせて。あと少しだから。本当にごめん」
「…何なんだよ。面倒くせぇッ!」
しっかりと足に力が入るようになってきた。
掴んでいた手を離し、ゆっくりと後ろに一歩下がる。
うん、大丈夫。
「玄弥くん、ごめんね。ありがとう。やっと地に足が着いた」
「ったく、世話ばかりかけやがって。行くぞッ」
そう吐き捨てながら、屋敷に向かって歩き始めた。
「うん」
返事をしつつ、慎重に一歩を踏み出す。
大丈夫だ。そこからも少しだけ慣れるまではゆっくりと、でもできるだけ早く足を進める。
玄関は通りすぎ、壁づたいに進めば、裏口に到着する。
少しだけ建て付けが悪いのだろう。ガラガラと音を立てて戸を開き、玄弥くんはそのまま中に入っていく。
「お邪魔します」
そう言って、私も中に入る。
台所のようだった。
玄弥くんは慣れた様子で靴を脱ぎ、屋敷の中に入る。
「ほら、何ボサボサしてんだよ。さっさと入ってこい」
「えっ?はいッ」
その言葉で急いで私も同じように草履を脱ぎ、屋敷に上がらせてもらう。すると、玄弥くんは廊下をズンズンと進んでいく。
悲鳴嶼さんのとこに行くのかな?
そんな事を考えながらついていく。以前は玄関から入ったので、全く部屋の造りが分からない。
廊下をいくつか曲がると、一つの部屋の前で止まる。
「取りあえずこの部屋を使えよ」
「えっ?」
「お前の部屋だよ。悲鳴嶼さんは今日はもう鬼狩りに出てて、いないから、取りあえずこの部屋を使えよ。明日以降の事は悲鳴嶼さんが戻ってからだ」