第22章 兄と弟
急に視界が変わったと思ったら、その景色が流れ出す。
玄弥くんは立ち上がってすぐに走り出した。カラカラとものすごい音をたてて、風車が回る。
隠の人達と違って、背負われている人の事は考えてないのだろう。かなりの振動が襲ってくる。
このままじゃ、ヤバい。
しっかりと手に力を入れ、玄弥くんの首にしがみつく形になる。頭も無造作に振られるので、しっかりとくっつける。
これでさっきよりは大丈夫。
もう、恥ずかしいとか言ってられない。
そう思った途端に、玄弥くんのスピードが上がる。
嘘でしょ…
驚く速さで山の麓まで辿り着く。そして休むもなく、そのまま山道を行く。
足元が悪くなったのもあって、速さは先程よりは落ち着いたけど、揺れがひどい。そして持っている風車は壊れてしまうんじゃないかと思う位に回っている。カラカラという音がカカカカと聞こえる。
更にしがみつけば、安定感は増す。
だけどそうすれば、玄弥くんのスピードが上がる。
安定感が増すから走りやすくなるんだろうけど。私にとっては更に力を入れ続けておく必要があるから、ある意味拷問だ。
これは、明日は筋肉痛だな。若くなってるみたいだから、今日の夜にきたりするのかな。やっぱり斉藤さんとか後藤さんとか、隠の人は安定感が半端なかったから、寝れたんだと思う。
そんな事を考えていたけど、途中から道が険しくなり、必死にしがみつき、何かを考えることなんてできなくなった。
どれだけの時間が経ったのだろう。少しだけ振動がやらわいだ。山の中は随分と暗くなっていた。もう夕方なんだろう。
そんな事を思った途端に、山から出た。
空は赤く染まっているようだ。山道でなくなっただけで、揺れが全く違う。
「ほら、ついたぞ」
そう言われて前を見れば、悲鳴嶼さんのお屋敷が飛び込んできた。
殆ど疲れてないのだろう。玄弥くんはすっと腰を下ろすと、両手を離す。
あまりの早さに、そのまま落ちて、尻餅をつくような状態になる。
「痛ッ」
「何やってんだよ。ほら、入るぞ」
「ちょっと待って」
体勢を整えて、立ち上がろうとしても、うまく体が言うことを効かない。