第22章 兄と弟
「あ、それと爽籟は実弥さんのお屋敷よね?」
「ソウネ。屋敷ノ近クニイルハズ。何?」
少しだけ木蓮の声が低くなる。元々実弥さんの事はあまり良く思っていない部分はあったから、今回の事もあって思うところはあるのだろう。
だけど、どうしても、これだけは伝えて欲しいのだ。
「実弥さんのこと、よろしくお願いしますって伝えてくれる?」
「追イ出シタ相手ノ事ナンテ、放ッテオイテイイノニ!」
「そんな訳いかないよ。実弥さんは私にとって、大事な人だから」
「…本当、ノブハ風柱ノコト、好キネ」
「大好きよ。でも、色恋の好きじゃないんだから」
「ソウイウ事ニシトイテアゲル。ジャ、行クワネ。爽籟モ任セテ」
「ありがとう。よろしくね」
飛び立って行った木蓮を見ていれば、斜め上から声が振ってくる。
「お前、隊員じゃねえのに鴉がいるんだな」
少しだけ驚いた様子だ。まぁ、そうだろう。当たり前に考えれば、鎹鴉は隊員につけられるものだ。隠にはいない。やり取りで使っているだろうけど、その人担当ってのはやはり隊員だけだろう。
「お館さまがね、つけてくれてるの。多分監視も兼ねてかなとは思うけどね」
声が振ってきた方を向き、見上げながら答える。
監視という言葉に、少しだけ玄弥くんの眉間に皺が寄った。
「…無駄口叩いてる暇はねぇ。お前さ、走れる…訳はないよな」
玄弥くんも聞いたものの、私の状況には気づいてくれたみたいだ。隊員じゃなければ、普通の人だ。
大きく首を振って肯定すれば、あっという間に眉間に皺が寄っていく。
「面倒くせぇ!ほら、背負うから、さっさと乗れよ」
そう言いながら、玄弥くんはくるりと背を向け、腰を下ろしした体勢になる。
苛ついているのが目に見えて分かるので、すぐに動き出す。だけど途中でつい声に出てしまう。
「やっぱり慣れない」
「何か言ったか?」
「いえ、何でもないです」
「さっさとしろよ。時間がねぇ」
「はい。よろしくお願いします」
只でさえご機嫌斜めなのに、これ以上苛立たせてはいけない。急いで背中に背負おわれに行く。