第22章 兄と弟
「本当にお前、何考えてるんだよ。こんな往来で荷物なんか広ければ、どうなるか分かるだろうが」
「ん?盗られる、とか?」
「分かってなかったのかよッ!ったく。本当面倒な奴だな。ほら、行くぞ」
眉間に皺を寄せながら、玄弥くんは歩き始めた。
取りあえず、訳も分からないまま歩き始める。置いていかれては堪らない。
「で、どこに?」
「…悲鳴嶼さんとこだよ。他に行くところはないんだろ」
「本当に?良かった。ありがとう、玄弥くん」
「お前をこのまま置いていけるかッ。間違いなく売られるし。そんな事になれば、目覚めが悪いしな」
苛ついて少々声が大きくなっている。
自分で一晩買ってくれる人は…何て言ったけど、私みたいなおばちゃんを相手にする人なんて、いないと思うんだけど。
ましてや一日で売られるなんて、そんなへまはしないと思う。
「えぇ?一晩位なら大丈夫だと思うんだけどなぁ」
そう思って呟いた言葉は、玄弥くんの眉間の皺を更に深くさせることになった。
「どこからその自信が出てくるのか、本当に分からねぇ。もう喋るな。ほら、行くぞ。歩け」
「うん」
歩き始めた玄弥くんの後を追う。背が高いからか、歩くのが速い。一歩の大きさが違う。何とか早歩きでついていく。若干小走りになる時もあるけど、玄弥くんは全く気にしない。多分気づいてないだけだろう。
少しだけ早歩きになった分、カラカラと風車は回る。
「榛」
町を出て少しした所で、玄弥くんが空に向かって言えば、すっと鴉が降りてくる。
「悲鳴嶼さんに、こいつを連れ帰るって伝えといてくれるか」
「分カッタ」
短いやり取りで、榛は飛んでいってしまった。
「あ、玄弥くん、私もいい?木蓮~」
呼べばどこからともなく降りてくる。
「ノブ、大丈夫?コレカラドウスルノ?」
一部始終を見ていたようだ。やはり話は早い。
「うん、取りあえず玄弥くんが悲鳴嶼さんの所に連れてってくれるみたいだから、今日はそこでお世話になるよ。お館さまに伝えてもらえる?それと、今後はどうしたらいいか。たくさんお願いしてごめんね」
「大丈夫。ソレガ私ノ仕事ヨ」
大きく翼を広げながら、そう答える。多分この仕事に本当に誇りを持っているのだろう。