第22章 兄と弟
どれくらい屋敷を眺めていたのだろう。
優しく流れていた風が止まった。風車のカラカラとした音が止み、ふと我に返った。
「ヤバいヤバい、これじゃ変な人だ」
そう呟くと、もう一度屋敷に向かって一礼してから、くるりと背を向ける。
もう見ないという、自分への意思表示だ。見てしまえば、色々な思いが込み上げてきて、多分涙が出てしまう。そうしたら、また動けなくなってしまう。
「それにしても、どうするかなぁ」
そんな事を呟きながら、取りあえず町の方に向かって歩き出す。手に持った風車がカラカラと回る。
「おい」
いくらか進んだ所で、声をかけられた。
「あれ、玄弥くん?まだいたの?」
声がした方に目を向ければ、玄弥くんが横道に立っていた。
「ハァッ。まだいたの、じゃねぇよ。お前、追い出されたんだろ?これからどうするんだよ?」
「どうしようかなぁと思っててね。もしかして心配して待ってくれてたの?」
「んな訳ねぇだろッ!」
慌てて顔を背けるけれど、ここにいる時点でそうとしか思えない。何とも素直じゃない所は本当に兄弟なのだと思えてしまう。
まぁ、そんな事を言っても、また、否定されるだけだから、わざわざ言わない。
「ふふ。そうだよね。一応、お館さまに言えばどうにかなるんだろうけど、すぐには無理だろうし。流石に野宿はね、できないし。あ、そうだ。玄弥くん。これくらいのお金だったら、宿とかには泊まれる?やっぱり足りないよねぇ。それか一泊だけ、身体で払うみたいな後腐れの無さそうなとことか人とか知らない?」
道の真ん中で座り込んで風呂敷を広げて、仕舞っていたお金を出して聞いてみる。だけど、私が喋ると、それに比例して、玄弥くんの眉間の皺がどんどん深くなっていく。
「…馬鹿やろうッ!お前なぁ、何考えてんだよッ!」
「えっ?今日の宿の事を、だけど?」
これ以外に何と答えればいいのだろう?
至極当たり前の事を聞かれて、疑問系で答える形になってしまった。
「ハァッ。埒が明かねぇ。ほら、行くぞッ!急いで金は仕舞え。風呂敷も片付けろ」
「はーい」
取りあえず返事をして、言われた通りに片付ける。風呂敷を背負えば、元通りだ。