第22章 兄と弟
目を閉じ、一つ深呼吸をする。
これだけで気持ちが少しだけど、落ち着く。
玄弥くんの背中から抜け出し、前に出る。
その途端、うまく息ができなくなる。このまま意識も飛んでいってしまいそうだ。
玄弥くんと同じように、両手をグッと握って力を込めてから、何とか口を開く。
「…分かりました。ですが、荷物を纏める時間を頂いても?終わり次第すぐに屋敷を出ますから。それと、玄弥くんはもう帰って」
「けどよ…」
「実弥さんが待ってくれてるの。早く出ていって」
そう強く言えば、玄弥くんはこちらを気にしつつも、屋敷から出ていった。
戸が閉まる音が聞こえた所で、私も口を開く。
「すみません、実弥さん。先程の件はよろしいですか?」
眉間には深い皺を寄せたまま、玄弥くんが出ていった戸を睨み続けている実弥さんに、しっかり目を向けて言う。
だけど視線が交わることはない。
「…さっさと終わらせろォ」
そう吐き捨てると、実弥さんは部屋に戻っていった。
私を圧倒したあの威圧感は、離れていくと共に少しずつ緩んでいく。
だけど、まだピリピリとした空気は解けない。
パチンと軽く両頬を叩いて、気合いを入れ直す。自室へと向かう為、動き始めるが、纏わりつく空気が重い。そして、息が詰まる。
重い空気を引き摺りながら、何とか部屋に戻り、机の前に腰を下ろす。引き出しにしまっていた物を取り出そうと手を伸ばすが、手先が震えてうまく動かせない。
かなりのダメージを受けている事に、今更ながら気づくが、荷物をまとめる事が最優先だ。
胸が締め付けられて、涙も出そうになったが、何とか抑える。
「泣くのは今じゃない」
声にならない声で呟けば、気持ちを切り替えるのには良かったらしい。
必要な物を持ち出すといっても、本当に少しだ。
ここへ飛ばされた時に着ていた服や靴等。下着類と普段着を数着。小物をいくつかと、甘味屋で働いたお給料。
風呂敷に包めば終わりだ。
あまね様から頂いた服は、分かるように押し入れの中から出しておく。他にも裁縫道具や硯や筆等、借りていた物は全て机の上に出した。