第22章 兄と弟
「待ってくれよ、 兄貴ッ!俺ッ、あの…」
何とか話を聞いてもらおうと、玄弥くんは言葉を紡ぐ。
だけど、途中で断ち切られる。
「弟はいねえって、言ってるだろうがァッ!それにお前、見たところ才覚もないみたいだから、そのまま隊を辞めろォ。俺の前に二度と顔を見せるなァ」
どこかで聞いたことのある台詞だ。
だからか、考える前に言葉が出る。
「実弥さんッ!玄弥くんも色々と考えているんです。少しだけでも話を聞いてもら…」
「ノブッ!お前、何でこいつを庇う?仲間かァ!だから勝手に屋敷に入れたのかァ!」
私が言い終える前に実弥さんの言葉がのし掛かってくる。屋敷の中に響き渡る程の声で、ビリビリとした威圧感が襲ってくる。
だけど、それに怯むことなく、玄弥くんは声をあげる。
「兄貴ッ!こいつは違う。俺の我が儘に付き合ってくらたんだよ」
「玄弥くんが実弥さんの弟って聞いて。兄弟だって聞いたからです」
私も玄弥くんの後から何とか言葉を絞り出す。
今度は断ち切られることはなかった。
だけど、言い終わった後は、先ほどとはうってかわり、静寂が屋敷内を支配した。
時間にすれば、一瞬の事だったに違いない。だけど、緊張で、何分も経っているようだった。
その静寂を断ち切ったのも、実弥さんだった。
「…お前ら、二人とも、出ていけェ!」
実弥さんの静かな、それでいて怒気を孕んだ言葉が屋敷に響く。
実弥さんから発せられる威圧感が、全身から隠されることなく、さらけ出されていた。
もうこれは殺気と呼んでもいいのかもしれない。
真っ向から受ける殺気を受け流す術は持ってなくて、心臓は早打ちし、だけど、冷や汗が尋常じゃない位吹き出す。少しでも集中が切れれば、意識を失ってしまいそうだ。
そんな私を分かってか、玄弥くんが前に出て実弥さんとの間に立ってくれる。それだけで、殺気が和らぐのが分かった。
玄弥くんを見れば、両手はギュッと握られていて、よく見れば細かく揺れているようだった。震えているのかもしれない。やっぱりこの空気は鬼殺隊の隊員だとしても、キツいものなのだ。