第22章 兄と弟
「誰だァ。お前はァ」
玄弥くんの姿を見た途端に、実弥さんの雰囲気が一気に重いものに変わる。
「あ、兄貴。勝手にごめん。どうしても話をしたくて」
そんな実弥さんにも気負いなく、玄弥くんは実弥さんに話しかける。一触即発の状態とはこの事を言うのだろうか。私は二人の様子を伺い続ける。だけど、ピリピリとした空気が流れ、息をするのにも気を遣う。
「アァッ!俺に弟はいねえ!さっさと俺の目の前から消えろォ」
「いや、話を聞いてくれよ。俺…」
分かっていたのだけど、実弥さんは全く話を聞いてくれない。話をする前からシャットアウトしてしまっている。
いてもたってもいられなくなり、私も口を開く。
「実弥さん、少しだけでも玄弥くんの話を聞いて貰えませんか。どうしても話を聞いてほしいって玄…」
「おい、ノブ。お前がこいつを入れたんだなァ!何勝手してるんだァッ!」
実弥さんの言葉が私の言葉を遮る。
鬼狩りに行く時のような、風柱としてのあの威圧感が、そのまま私に向けられる。
怖い。普段は私に向けられることはない圧が、全てこちらに向かってくる。寒々とした空気に押し潰されそうになる。
実弥さんの表情も全く違う。いつもは睨んでいると言っても、可愛らしいものだったのだと実感する。目を向けられるだけで、殺されてしまう気もしてしまう。
苦しい。息が止まる。
今まで受けたことのないような威圧感に、このまま逃げてしまいたいと、そんな気持ちが一瞬頭を掠める。
だけど、ここで折れる訳にはいかない。
私がここにいる意味。それは二人のためだ。
何とか声を振り絞る。
「ッ!だって、実弥さんの弟さんだって」
何とか出した声は掠れて、思ったよりも小さいものだった。だけど、実弥さんには聞こえていたようだ。話している途中で、遮られる。
「俺に弟はいねえッ!」
分かっていたことだけど、全く話を聞いてもらえない。私が援護したところで、実弥さんの気持ちが変わる訳はない。だけど、少しの望みを託して声をあげる。
「そうだとしても、話を聞く位はできるじゃないですか」
「聞く必要がねェ。邪魔だァ。さっさと消えろォ」
冷たく吐き捨てられた言葉に、私の言葉は呆気もなく切り捨てられた。