第22章 兄と弟
「あぁ、玄弥くんは可愛らしい女の子が好きなのね」
私は残念ながら、お眼鏡に叶わないわ…などと、続けようと思ったけど、それはできなかった。
「なッ!なんでそんな話しになるんだよッ!そんなこと一言も言ってないだろうがッ!」
かなり前のめりになって、今日一番のしかめっ面…いや怒った顔で、一気に捲し立てられた。
うん、まだ思春期状態の玄弥くんにはなってない時期だけど、顔も真っ赤。
女の子の好みは、図星だったのかも。
「可愛らしい女の子の方がいいよね~。大丈夫。これからたくさん可愛いい子と出会えるって。ほらほら、怒らない。あ、そろそろ終わったかな、実弥さん」
「アァッ?」
女の子の話をすれば、益々苦虫を噛み潰したような顔になた。そんな姿を見て、可愛らしいと思った所で、ふと、音が止んだ事に気づいたのだが、話を反らしたと思われたのだろう。
若干どこぞの悪い奴みたいなセリフだ。
だけど、稽古が終わったのであれば、私もやらなきゃいけないことがある。
「ほら、風が止んだでしょ。それに稽古の音も聞こえなくなった。音が聞こえなくなったら、だいたい片付けてるから。あと少しで戻ってくるよ」
そう答えると、玄弥くんの返事を聞くこともなく、おやつの準備に取りかかる。構っている暇はないのだ。
「…」
玄弥くんももう口を開かない。纏う雰囲気がピリッとしたものに変わる。それに影響されてか、私も緊張感が走る。
ひたすら、沈黙が続く。
外で鳴く虫の声と、私の作業の音。そして、時々玄弥くんの大きな息づかいが聞こえる位だ。
いつもと変わらないのに、何だかかなり長く感じる。
廊下を歩く音が聞こえた。
スッと息を吸った音が響き、更に玄弥くんの纏う空気が重くなる。
私もその雰囲気に飲まれて、体が固くなってしまった。ゆっくりと大きく深呼吸をして、廊下へ向かう。
「実弥さん、稽古お疲れ様でした。おやつも夕食も準備できてますから、いつでもどうぞ。それと、お客様がいらっしゃってます」
「アァッ!客ゥ?誰だァ?」
そう言うと、いつもはそのまま入る自室の前は通り過ぎ、こちらへ向かってきた。
実弥さんの声を聞いた瞬間、玄弥くんも椅子から立ち上がって、待ち構えている。
さあ、どうなる。