第22章 兄と弟
「…クッ。何だよ、それは」
一瞬玄弥くんの眉間の皺がなくなったと思ったら、顔が緩んだ。
すぐにまた戻ってしまったけど、笑った。
何がおかしかったのか、私にはわからないけど。
「仕方ないでしょう。元々独り言が多いのは分かってたんだけどさ。今日の私は、喋ってなかったのよ、本当は。もう無意識だったら、どうしようもないんだから。気にしないでって言うしかないのよ」
そう一気に言い終えると、はぁっと大きく一息つく。
そのまま先程の作業に戻ろうとすれば、後ろから声がかかる。
「分かったよ。そんな怒るなよ」
私の投げやりな言葉に、玄弥くんは何故かそんな返答をする。
「えっ?怒ってないんだけど」
全く身に覚えのないことを言われたので、振り返ってすぐさま否定する。だけど、玄弥くんの眉間の皺が増えて、しかめっ面になるばかりだ。
「…絶対怒ってるだろ」
再度言われれば、もうどうしようもない。
たぶん、私がこれ以上言っても、平行線になる気がする。
「もう。怒ってないって言っても信じてもらえないから、この話は終わりね。はい、お茶のお代わり。出涸らしだけど」
玄弥くんの興味を反らしたくて、空になっていた湯飲みにお茶を入れる。茶葉はそのままだから、ちゃんとお知らせもしとく。
「…嫌がらせかよッ!」
フンッと顔を背けて言う姿は、何だか子どもが拗ねているみたいだ。ふとそんな仕草をしていた長男の姿と重なる。
何だか玄弥くんが長男のような気がして、可愛らしく見えてくる。
「いいツッコミ、ありがとう」
久しぶりの記憶が顔を出し、自分でも柔らかいよな、と思う位、勝手に顔が緩んでしまった。
「ハァッ?何だよそれは。ってか、お前と喋ってたら妙に調子が狂う」
「楽しいでしょ?」
「楽しくねぇよ。もうお前喋るな」
「まぁいいけど。独り言言ってても気にしないでね。さあ、ご飯炊こっと」
そう言ったあとは、返事はなかったけど、代わりにズズッとお茶を啜った音がした。
なんだ、文句を言いつつ、ちゃんと飲むんだから、やっぱり素直じゃないなぁと思う。