第22章 兄と弟
何か言いたそうにしたいるけど、言葉がでないのは、少しは自分の立場を理解してくれたからだろうか。
今の玄弥くんは、小さな子供が感情のまま喚いている状態だ。
でもしっかり物事を捉えられる子だし、相手の事を思いやれる優しい子だ。あの時から今も変わらず、実弥さんの事を思って行動しているだけなのだから。
その時間が、色々な焦りを生み、玄弥くんを縛り付けているだけだ。
それが解けるのは、刀鍛冶の里での炭治朗くんとのやり取りに他ならない。
私とのやり取りで解けるとは思っていない。だけど、少しは信用してもらえないと、実弥さんには会わせられない。
「ちゃんと会わせてあげるから。でも、その前に玄弥くんと話をさせて」
「俺はお前と話す事はない」
目線を合わせようとするが、一向に交わる気配はない。でも先程に比べれば声が落ち着いているので、少しは考えてくれているのだろう。
「あら、そんな事言わずに食べていって。せっかく準備したのだから」
華子さんがそう言いながら出てくる。一気にその場の雰囲気が変わる。
お盆には頼んだおはぎとお茶が載っていて、手早く並べていく。
「華子さん、ありがとうございます。玄弥くん、どうぞ。私の奢り。ここのおはぎはね、実弥さんのお気に入りなのよ。だから、食べて欲しくってね」
「…」
色々な気持ちがごちゃ混ぜになってしまっているのか。
苦虫を噛み潰したようなしかめっ面だ。
「ほら、立ち話もなんだから、座って。そして食べて、話して。そしたら、お屋敷に帰るから。そこで実弥さんと会って。お昼からは稽古してるから、今帰ってもすぐには会えないよ。あ、それと玄弥くん。今日は実弥さんはいるんだけど、ちゃんと話ができるかは分からないの。今日玄弥くんを連れてくる事は言ってないから。ごめん」
「…いい。取りあえず会わせてくれ」
私のしつこさに根負けしてくれたのか、しかめっ面のまま、でも少しだけ落ち着いた口調で答えてくれた。
「うん。ごめんね、もう少し役に立てればいいんだけど。せっかくの美味しいお茶が冷えちゃう。食べよ」
そう言えば、玄弥くんは渋々といった感じで私の前の椅子に座る。顔は横を向いたままで、やっぱり視線が交わる事はない。
まぁ、想定内だ。おとなしく座ってくれただけでも良しとしよう。