第22章 兄と弟
「取りあえず、おはぎとお茶を二つお願いします。あと持ち帰りで、いつものを。それとは別にこの三つの練り切りを二つずつ、お持ち帰り用でお願いします」
「店内で食べる分はすぐ準備するわね。お持ち帰りは帰るまでには準備しておくわ」
「ありがとうございます」
会話を終えると、店内のいつもの席に座る。
ふぅと一息つく。どうも少し緊張しているようだ。店内に飾れている花を見て、すぅっと大きく息を吸い込む。甘い香りでいっぱいになり幸せなきもちになった所で、一気に吐き出す。
そうすれば、少しは体の固さも取れる。
考えると緊張してしまうから、という理由をつけて、ぼんやりと待つことにする。
それから少し経ってガラガラと音を立てて戸が開いた。ドキッと一つ大きく脈打つ。
急いで音のした方を見れば、私が待ちかねていた相手が立っていた。玄弥くんは前に見た時より身長が伸びた気がする。しかめっ面で、少しだけ周りを警戒しているのが分かる。狭い店内だ。すぐに目が合う。
「玄弥くん。こっちこっち」
手招きすると、更にしかめっ面になったものの、ゆっくりとこちらに向かって歩き出す。
だけど、ちょうど席まで1m位の所で立ち止まってしまった。
「立ってないでここ、座ってよ。今頼んでるけど、すぐ来ると思うから」
向かいの席を指して示すが、全く動く気配はない。
「…俺は、こんな所でお前と食べる為に来たんじゃねえ!さっさと兄貴に会わせろッ!」
頭の上から怒鳴られて頭に響く。そりゃそうだな、とは思うし、今の玄弥くんの状況ならこの物言いは分かるけど…。実際にそんな風に言われてしまうと、少しだけイラッとしてしまった。
「あら、それが人に頼む態度なの?取りあえず玄弥くんと会う約束はしたけど、実弥さんに会わせるとは一言も書いてないわよ。私が怒ってしまったら、実弥さんに会う手段が一つ減ってしまうけど、それでもいいの?焦る気持ちは分かるけど、ちゃんと弁えて。玄弥くんならできるでしょ?」
「…」
苛ついたまま、一気に気持ちを吐き出す。玄弥くんはそんな私に少しだけ驚いていて、だけど何か言いたそうにしていた。