第22章 兄と弟
何をしたという訳ではないのに、もう玄弥くんと会う約束をした日になった。
この日は朝から曇り空だった。カラッと晴れてくれていれば、それだけで何だかうまく行きそうな気がするのに…。
そんな事を思っても、天気が変わることはない。今は雨が降らない事を祈るばかりだ。朝からいつも通りに洗濯物をしたが、乾くかは微妙な所だった。
「風が少し出てきたから、乾いてくれるかな」
午前中はなかった風が、さわさわと洗濯物を揺らすのを横目に見ながら、台所に戻る。
机に昼食を並べていれば、匂いに釣られたのか、音で気づいたのか、実弥さんがやってくる。今日は帰りが遅かった事もあって、少しだけまだぼんやりとしている気がする。
「頂きます」
いつもより少しだけ小さな声だ。合わせていた手は、すぐに箸と茶碗に向かう。
前に並べられた食事を黙々と食べ進める。
それを確認し、私も準備を終わらせ、椅子に座る。
「ご飯食べたらお買い物に行ってきますね」
「アァ」
実弥さんが食べ終わり、部屋に戻る所でそう伝える。いつもと変わらないやり取りだ。
片付けを終えると、買い物用の籠を持ちお屋敷を出る。
さて、今からが一つの勝負だ。
どう転ぶか、全く分からない。どうしたらいいかも分からない。
単行本で書かれてないことをやるのだから、正解はない。やってみるしかない。
そんな事をツラツラと考えながら歩いていれば、甘い匂いが鼻を擽る。
気づけばもう甘味屋まであと少しの場所まで来ていた。方向音痴の私が無意識でもここまで来れるようになったのは、それだけここに通ったからだろう。
そんな事からも時の流れを感じてしまう。
「こんにちは」
赤い暖簾をくぐって店内に入る。
まず店内を確認する。良かった。まだ玄弥くんはまだのようだ。
店の中へと足を踏み出すと、奥から華子さんが顔を出した。
「いらっしゃい、ノブちゃん。お約束している相手、まだ来られてないわよ」
昨日、店に寄った時に伝えていたのだ。勝手に甘味屋で会う約束をしてしまったから。難しければ、場所の変更の連絡をしないといけなかったし。
だけど、「いいわよ」と特に詳しく聞くこともなく、快諾してくれたのだ。
本当に華子さんには助けられてばかりだ。