第22章 兄と弟
実弥さんの鎹鴉だ。
変わっていなければ、隊員になった最初から、一番近くで実弥さんの事を見てきた筈だ。
だから実弥さんの考えも、もしかしたら分かっているのかもしれない。
でも、それは、誰彼構わず言える事じゃない。それが分かっているからこそ、今の一言になったのだろう。
「何ナノ、ソレハッ!考エテテモ、動カナイトドウニモナラナイノヨ。ダイタイ、風柱ハ…」
木蓮には木蓮なりに考えているのだろう。
煮え切らない爽籟の態度に、苛つきが増し、口調が刺々しくなっている。
端から見れば、実弥さんは何故そんなに玄弥くんを遠ざけるのか、って思うだろう。
でも、実弥さんは他人からどう見られようと、どう思われようと、関係ない。
全ては玄弥くんのためなのに。それは誰にも伝わることはない。
真実を知っているのは、お館さまと、もしかしたら爽籟くらいかもしれない。
「そうね。実弥さんは実弥さんの考えがあって、行動してるんじゃない?でも、それって実弥さん自身のためじゃないと思うんだよね。だからこそ玄弥くんの話を聞いて欲しいのだけど。私達がここで話してても、どうにもならないわ。さぁ、木蓮、爽籟、この話しはここでおしまい。さぁ、仕事に戻りましょう」
私は木蓮に向かって、そう伝える。
爽籟はこれで話しは終わりと言うように、ジャアナと一言呟き、大きく羽を広げて空に向かって飛び立った。木蓮もそれに続き、二人は空に消えていく。
残された私の周りは、虫の鳴き声だけが響く。
残りの洗濯物を干しながら、改めて実弥さんの事を思う。
私は知っている。実弥さんの覚悟を。
だけど、それは今ここにいる私が知っていてはいけない事なのだろう。
木蓮には、いや、他のみんなにも、本当の実弥さんの事を知って欲しい。だけど、それは私から伝える事じゃない。
明後日には玄弥くんと会う。
だけど、どうしたらいいのか分からない。何をどうやっても、実弥さんには伝わらない気がする。
カナエさん、匡近さん。あなた達だったらどうしますか?
ふと、二人の事を思い出す。実弥さんの事を心配していた人達だ。二人だったら、この兄弟の関係をすぐに戻せたのかもしれない。
今はいない二人にすがってみても、結局答えは出ない。
「なるようにしかならないか」
そう覚悟を決めて、次の仕事に取りかかるため、屋敷に上がった。