第22章 兄と弟
「ありがとう。榛は玄弥くんの鎹鴉なのね。そしたら、お返事を持って帰ってほしいのだけど、時間は大丈夫?」
「アァ」
少しだけ顔を背けながら言う姿は、何だか実弥さんを思い出させる。
「ありがとう。じゃあ、ちょっと待っててね。ごめん、木蓮、爽籟。榛のこと、よろしく」
部屋に戻り、手紙を開封する。実弥さんは寝ているから、静かに、だけど急いでだ。
『兄貴のことで相談したい
不死川玄弥』
必要な事だけしか書かれていない手紙に、クスリと笑いが漏れる。
達筆とは言いがたいけど、力強い筆跡で、意思の強さを感じる。
だけも、この手紙を出すのに、一体どれだけ悩んだのだろう。それが想像できるからこそ、すぐに筆を走らせる。
『不死川玄弥さま
お手紙ありがとう。
よかったら、実弥さんの屋敷のある町に、さの屋という甘味屋があるので、そこで会いませんか。
二日後の午後一時にお待ちしてます。
三井 ノブ』
必要な事だけを書く。
墨が乾くのを助けてくれるかのように、カラカラと音を鳴らして風車が回る。鴉のおやつを準備する。いつものいりこだ。
墨が乾いた事を確認して紙を折る。これで手紙はできた。先程準備したおやつも持ち、榛達が待つ庭に向かう。気持ちは急いでいるけど、ゆっくりと静かにだ。
「榛、お待たせ。お返事できたから、よろしくお願いします」
「ワカッタ」
榛の前に手紙とおやつを置く。
「それとおやつ、食べていって。木蓮と爽籟も」
木蓮と爽籟にもいつものようにいりこを置く。二人ともすぐに食べ始めるが、榛の動きは止まったままだ。
警戒しているのだろう。木蓮達にはいつもの事だから忘れていたが、最初は爽籟もこんな風に固まっていたのを思い出す。
「大丈夫よ。悪い物じゃないから。ただのいりこよ」
そう説明すれば、木蓮と爽籟も口を開く。
「オイシイワヨ。食ベナイ?」
「オイシイゾ。オ前、食ベナイナラ貰ウゾ」
爽籟がそう言うと、焦ったように榛が動き出す。
「食ベル!」
そう言って、嘴でいりこを摘み上げ、口に入れる。
口に合ったようで、そのまま次のいりこを摘んでくれる。