第22章 兄と弟
それから数日後、天元さんとお嫁さん達からお礼の手紙を頂いた。
もう蝶屋敷から出たそうだ。原作で知ってたとは言え、実際に聞くと「すごい」の一言に尽きる。
「さすがですね。天元さんも体は大きかったですけど、柱の方って、頑丈なんですかね?」
「頑丈というか、全集中の呼吸をしてるからな。回復は早いなァ」
「呼吸ですか」
「わかんねえよなァ」
呼吸の事は分かるのだけど、仕組みが理解できない。
実弥さんの風の呼吸も稽古で少し見るけど、本当に漫画のような事が目の前で起こるのだ。
こんなことが生身の人間ができるのかと疑ってしまうが、実際に目の前で起きていれば、現実なのだと思い知らされる。
「すごいってことだけは、分かります」
「クククッ!そうだなァ」
そんな他愛もない会話をして、変わらない毎日を過ごしていた。
遊郭での闘いから、1か月程経った秋晴れの日だった。
洗濯物を干している時に、声をかけられた。
「ノブ、オ客様ヨ」
いつもの二人の鴉と、見たことのない鴉が私の前に降りてきた。
「おはよう、木蓮、爽籟。私にお客様?珍しい事もあるのね」
木蓮と爽籟は、私が庭先に出ると、時々ふらりと現れる。そして、三人で話をするのだ。まぁ、私と木蓮が主に話してて、爽籟は聞いてくれる事が多いのだけど。
私は話す人が限られているから、本当に二人はいい友達になっている。
実弥さん宛に他の鴉がやってくる時も、だいたい二人が教えてくれる事が多い。だけど、今回は私だと言う。本当に珍しい。
「ノブトイウノハ、オ前カ?」
遠慮がちに話しかけてきた鴉は、白い紙を握っている。誰かからの手紙を持ってきてくれたのだろう。だが、誰かには全く思い当たらない。
「えぇ、そうよ。あなたは、初めましてだよね」
その場しゃがみこみ、その鴉に少しでも近くに目線を寄せて、そう挨拶する。
「ハシバミダ」
鴉の名前では誰か思い出せない。もう少し読み込んでおけば良かったと後悔する。
「榛ね…。私に用って、どうしたの?」
「玄弥カラ、手紙ヲ預ッタ」
そう言うとふわりと羽ばたき、私の前にやってくる。手を出せば、そこに白い紙が渡される。
まさかの差出人に、驚きつつも、頭の中をフル回転させる。数ヶ月待ちに待った機会だ。