第22章 兄と弟
「えっ?今日だけじゃないんですか?見ないでくださいよッ!食べるの大好きなんですから、仕方ないんです。色気より食い気ってのは重々承知してますから、改めて言わなくて結構ですって!」
流石に見られ続けているなんて、恥ずかしすぎる。
女子力なんて皆無に等しいのは、自分自身がよく分かっている。
「クククッ!色気より食い気ね。違いねェ」
「自覚してますから、もうわざわざ言わないでください。食べにくくなっちゃいますし」
「分かった分かったァ。ほら、食べるぞォ」
そう言いつつもニヤニヤしながら、私の方を見ているのだ。
「実弥さんだって、顔が緩んでますからね!」
自分だけ言われっぱなしなのも負けてる気がして。負け惜しみのように、一言言い放つ。
だけど、思いの外その一言は実弥さんにダメージを与えたらしい。
「アァッ!そんな事はねェ!」
「フフッ。実弥さんが気づいてないだけですよ」
「…見るなァ」
「お互い、気にせずに食べましょう。せっかくの美味しいものなんですから」
「…そうだなァ」
そう言った後に実弥さんと目が合う。何だか今までのやり取りが可笑しくて、笑いが込み上げてくる。実弥さんもだったようで、二人で笑い合う。
何とも平和な一時で。
何とも幸せな時間で。
終わりが来るとは理解していたけど。
まだこの生活は続くものだと思っていた。
それがこんなにも突然変わってしまうなんて。
この時の私は、思いもしなった。
実弥さんからあんな形で離れる事になるなんて。
どれだけ幸せな時間を過ごしていたのかなんて。
この時の私は、分かったつもりだった。
覚悟してるつもりだった。
だけど、全く理解できてなかったのだと、思い知らされるのだった。