第22章 兄と弟
「実弥さん、私の顔に何か付いてます?」
実弥さんがお見舞いに行った翌日、いつものようにおやつタイムを取っていた。一つ目のおはぎをパクパクっと食べた後、いつもならすぐに二つ目に突入する筈の実弥さんの手が止まっていた。
それだけならまだしも、頬杖をしながら、私をじっと見ているのだ。
自意識過剰かと思ったのだけど、視線に気づいてからはずっと見ているのだし、私が何かやらかしてるんだろう。流石に見続けられるのは、恥ずかしい。
「いや」
「さっきから見てますよね?」
「アァ。お前、本当に旨そうに食うよなァ」
そう言う実弥さんは、いつものからかうような悪さは全くない。ふんわりとした優しい笑い方で、頬杖をついてリラックスした姿勢なのもあるのか、少し色気も醸し出す。
私の心臓はドキリと大きく打つ。
「それで見てたんですか。流石にずっと見られてると食べにくいですから、実弥さんも食べてくださいよ」
心臓が持たないし、あまりにもそんな実弥さんだと調子も狂う。
「んー」
実弥さんには珍しい、気だるそうな返事にまた心臓が跳ねる。
二つ目のおはぎに手を伸ばすと共に視線が外れた。
まだ私の心臓はドキドキとしている。
それを落ち着かせたいと、残りのおはぎを食べることを集中する。
口の中にほんのりとあんこの甘さが広がっていく。
「やっぱりこのおはぎは旨いよなァ」
「私もそう思います。そういえば、昨日持っていって貰った差し入れ、食べたんですか?一応おはぎも選んでたんですけど」
「いや、宇髄が元気にしてたから、長居せずに出た。みんなで食べたんじゃねぇか。俺は途中で買って食ったけどなァ。さの屋のに比べると、何か一味足りない気がしてなァ」
実弥さんは言い終わると、おはぎを一口食べる。
私が旨そうに食べると言うけど、実弥さんも表情が柔らかくなっているのに。
「おじさんの作る甘味はどれも美味しいですからね。毎日食べてたら当たり前になっちゃいますけど。美味しいものを食べれるのは幸せですよね」
「そうだなァ。お前、本当ニヤニヤして、大口開けて間抜けな顔で食ってるもんなァ」
先程までの笑い方から、いつものニヤリとした意地悪そうな笑い方に変わる。