第22章 兄と弟
「ご馳走さん」
「ご馳走様でした」
少し時間が経ってから、実弥さんは厠から戻ってきた。
二人とも何事もなかったかのように昼食を食べ始める。食事中はまだ少しだけギクシャクした感じで、二人とも話をすることなく、食べ終えた。
二人で並んで食器を洗う。
いつもの事をしていれば、徐々にいつも通りの感覚に戻る。
「あ、実弥さん。天元さんへの差し入れ、買ってきたので、よろしくお願いします」
「…まさかとは思うがァ、あの風呂敷に包んで置いてあるやつかァ?」
「そうです!可愛いでしょ」
花柄の風呂敷だ。落ち着いた色合いだし、パッと見た感じは花だとは分かりにくい。
「……俺にはわからねェ」
「この後でお手紙急いで書くので、それも一緒にお願いしますね」
「…なぁ、他のに変えねえかァ?」
皿を拭きながら、ボソッと呟く。
「あの風呂敷だと、恥ずかしいですか?」
実弥さんの顔を見ながらそう言えば、私の事を睨んでくる。
「ハッ!そんなんじゃねェ」
「じゃあ、いいじゃないですか」
売り言葉に買い言葉。自分で言ったのだから、どうしようもない。
しまったという顔をしたけど、見なかったふりをする。ここで私が何か言ったとしても、今の状態なら反発しかしないだろうし。
「あ、あぁ」
呟くような返事が、ちょっと頼りなくて、可愛らしくて。
差し入れをお願いしたのは私だし、後でこっそり風呂敷を変えておこう。
片付けが終わったら、急いで天元さんへの手紙を書く。もう簡潔に。まだまだ下手だから、できるだけ丁寧に書くように心がける。
書き終われば、台所に戻る。
こっそりと風呂敷を変えて、その中に手紙を忍ばせれば準備完了だ。
「ノブ、そろそろ出る。これを持っていけばいいんだろォ」
午前中できなかった掃除をしていると、実弥さんから声がかけられた。手元を見れば、風呂敷をもう持っている。
「あ、そうです。ありがとうございます。その中に天元さんへの手紙を入れてますので、渡して頂けますか?」
「分かったァ」
「ありがとうございます」
そう言えば、実弥さんは玄関へと向かう。
その後を追うように、私も後をついて行く。
草履を履く後ろ姿を少し後ろから眺める。毎日の事だけど、こうやって見送れるのもあとどれくらいなのだろう。