第22章 兄と弟
「ん?やけに素直じゃねぇかァ」
私の反応が不味かったのだろうか。話しは終わったと思ったのに、実弥さんは私の顔を覗き込んできた。意地悪そうな顔をした実弥さんが視界いっぱいに広がる。
乗せられた手はそのままで。優しいのだけど、がっちりホールドされていて、逃げることは叶わない。
一体何をしたいのだ。
あと数センチで、キスでもできそうな距離だ。
「キス…」
ふいに口に出してしまって、すぐに後悔した。
更に顔に熱がこもり、汗も吹き出してきた。
「アァ?きす?鱚がどうしたァ?」
近かったせいか、私の呟きは聞かれていたようだ。
どうやってもこの体勢から変わる様子のない実弥さんを凝視する勇気もなく、視線は定まらない。
「いや、その鱚ではなくて、キスは…。いや、これは、取りあえず置いときましょう。取りあえず、実弥さん離れて貰えます?この体勢、口づけされそうな体勢ですし、私が無理やり動くとくっつきそうだし。いや、でも実弥さんがしたいならいいんですけど…」
「なッ!するわけねぇだろうがァッ!厠に行ってくるッ!」
私の話を聞いていた実弥さんも、途中で理解したらしい。素早く離れて、そう言ったかと思えば、急いだ様子で厠の方に向かった。
心なしかほんのり赤くなっていた気がする。
そもそも先に意地悪してきたのは実弥さんだから、私が悪い訳ではないと思う。
それにしても顔が熱い。まだ心臓もドキドキしている。
恋に夢見る若い子でもないのに、とは思うが、やっぱり実弥さんからされると、刺激が強すぎる。
キスをすること自体は抵抗はないんだけど…
「いやいや、ダメでしょ」
どうも頭の中まで熱に浮かされているようだ。
「ご飯、ご飯。お昼ご飯の準備をしよう」
そう言って気持ちを切り替える。
キスしたり、実弥さんのモノを舐めたりと、もっと恥ずかしいをしてはいるのだけど…
自分からする分には恥ずかしさもないのだけど
…
こういった私に与えられるものには、最近ご無沙汰だっただけに、刺激が強すぎるのだ。
天然たらし、恐るべし…
そんな事を考えていれば、動悸も顔の熱さも落ち着いていたのだった。