第22章 兄と弟
認めたくないけど、それが事実ならば把握する必要がある。
「え?え?じゃあ、私無意識に声に出てたってことですかね?どうしよ。すみません。あーじゃあ煩かったですよね?」
喋ってみたものの、動揺しているのか、何だか纏まらないものになってしまった。
だけど、実弥さんはそんなことには気にもしていないようで、私の最後の質問に答えてくれる。
「まぁ、いつもよりは声は小さかったしなァ」
「はぁ、本当にすみません」
もう、この言葉しか出てこない。
「自覚なしかァ?」
ニヤリと笑いながらそう問いかけられ、今の思いが一気に出てくる。
「いや、独り言が多いのは自覚してましたよ。自覚してたんですよ。実弥さんにもよく言われてましたし。だけど、今日は頭の中でしか考えてなかったんですよ。考えてただけで、声にはしてないんです。でも声に出てたんですよね?考えてるだけなのに、無意識に言ってるなんて。いや~、無意識って怖い」
一息で言い切った。
私のあまりの勢いに一瞬ポカンとした表情をしたかと思うと、一瞬で顔がくしゃりと緩む。
「クククッ!本当、お前は可笑しいよなァ」
なかなか見ない実弥さんの顔に、心臓が大きく跳ねるが、その前の独り言の大失態の恥ずかしさの方が勝ってしまう。
「もう!笑わないで下さい。ほら、ご飯食べましょ。お昼から蝶屋敷に行くんでしょ。早く食べないと。夜もいつも通り行くんですよね。ほら、時間がないですよ」
実弥さんの腕を掴み、台所へと誘導しようとするが、流石に成人男性を動かす力はなかった。
「分かった分かったァ。俺も起きたばかりだァ。せめて厠に行ってからなァ」
さっきまでも無邪気に笑った顔から、いつものニヤリとした意地悪そうな笑いに変わる。
なのに頭に乗せられた手は優しく、子どもをあやすかのように、二度程たたかれる。
もう何だか色々と追い付かない。
一気に顔に熱が集まり、心臓もドキドキと波打つ。
「…はい。ご用意しておきます」
何とか反応するが、赤くなった顔を気づかれないように、視線は下に反らす。