第22章 兄と弟
話が一段落した所で、実弥さんは朝食を食べ始めた。
私は途中だった片付けを済ませながら、考える。
原作の通りであれば、天元さんやかまぼこ隊の3人は重症だ。激しい闘いだったと記憶している。
上弦の陸、堕姫と妓夫太郎。
この二人を相手に、本当に大変だっただろう。だけど、この闘いでかまぼこ隊の3人はしっかり成長したと思う。
怪我の具合は気になるものの原作の通り進んでいれば大丈夫だという気持ちがあるのか、今はどうしても物語の中心だった4人の鬼殺隊員よりも、お嫁さん達の事が気がかりだ。
元は忍者の修行をしていたとしても、終わりの見えない遊郭への潜入捜査から上弦の鬼との闘いは、身をすり減らすような状況だっただろう。
それに、大切な天元さんを亡くすかもしれないという恐怖も味わった筈だ。
鬼滅の刃という物語は、竈門炭治郎達の成長の物語だ。だからどうしても炭治郎達目線での話が多い。
お嫁さん達のことは、読んでいる時にはあまり気にならず、ただのサブキャラクターだった。
だけど、この世界に来てからは、鬼滅の刃の世界だけれど、物語はあの話だけじゃないと実感している。
ここでは、みんなそれぞれが一生懸命生きている。
一人ひとり、物語がある。
同じ物語でも、視点を変えれば、違うものになると頭では分かっていても、本を読んだりアニメを見るだけだと、どうしても主人公である炭治郎に引っ張られてしまう。
だけど、ここではみんな生きていて、生活していて、一つだけの物語が展開しているわけではなくて。
だから、お嫁さん達の事がどうしても気になってしまう。
だけど今私ができる事、手伝える事はない。でも何かしたい。だけど、何ができる?何か……
そう自問自答していて、ふと一つの事を思い付く。
「実弥さん、良かったら天元さんのお嫁さんや蝶屋敷のみなさんに甘味を持って行って頂けませんか?」
「…手土産ェ?」
これでもかと眉間に皺を寄せている実弥さんは、多分そんな事はしたくないのだろう。
だけど、私が思い付く、私ができる事だ。
折れる訳にはいかない。