第22章 兄と弟
秋祭りの日から、幾日か経ったある日の早朝。
少しずつ日が短くなり、それに伴い、実弥さんの帰宅時間も遅くなっている。今日もまだ実弥さんは帰ってきていない。
鬼が動くのは夜だから、夜が長ければその分鬼殺隊の動く時間も長くなるのは仕方ないのだが、これからどんどん寒くなってくる。人間側にとって、何と不条理なのだろうと思う。
そんな中、私はいつも通り目覚め、いつもと変わらず朝の準備をする。いつもと変わらない日常を過ごしていた。
だけど、いつもの日常の終わりを告げるかのように、木蓮が中庭から入ってきた。
「ノブ、オハヨウ。上弦ノ陸ヲ、音柱達ガ、倒シタワ」
「おはよう、木蓮。そっか、ありがとう。天元さんもだし、みんな大丈夫?生きてる?」
「カナリ、重症ダケド、誰モ死ンデイナイカラ、心配イラナイワ」
「良かった。ありがとう、教えてくれて」
「ドウイタシマシテ」
そう言うと、木蓮は飛び立っていった。
「また一つ、話が進んだ…のかぁ」
軽く目を閉じ、ふうっと、大きく息を吐く。
色々と考えたはずなのに、日々の生活に流されて、時間だけが過ぎている。遊郭編が終わったのであれば、後は刀鍛冶の里と最終決戦を残すだけだ。
かといって、私はできることはない。
結局、玄弥くんからも連絡はない。
会いに行くのにも一人では行けない。もう少し一人で動ければ打開策も思い付くのかもしれないけど、向こうからのアクションを待つしかないのが、現状だ。
仕方ない。
そう結論付け、止まっていた手を動かす。
朝食が済み、片付けている頃、実弥さんが戻ってきた。
「おかえりなさい、実弥さん」
台所から玄関に向かえば、ちょうど草履を脱ぎ終わり、立ち上がった所だった。
「今戻ったァ」
少しだけ隊服が汚れているので、闘ってきたのかもしれない。疲れているとは分かっているが、どうしても我慢できず、実弥さんに尋ねた。
「実弥さん、天元さんのお怪我は大丈夫なんですか?」
実弥さんは私が知っていた事に一瞬驚いたような顔をした。
「聞いたのかァ」
「はい。明け方、木蓮が教えてくれました」
そう言うと、実弥さんは自室に向かって歩きだした。