第21章 秋祭りを歩く
何だかんだで、この時代の生活にも慣れ、実弥さんとの生活が当たり前になってきた。
いつか現代に戻るのだろうという漠然とした気持ちはあるものの、既に何ヵ月か生活する中でこのまま帰れないのでは、という考えが頭を過るようになってきた。
何の因果か、大好きだった鬼滅の刃の世界に突然放り出され、実弥さんの屋敷で過ごすという、私にとっては夢のような日々を過ごしている。
それでも、家族の事や生活の事、仕事の事は頭にあった。特に子ども達の事は気になっていて、どうしているのだろうと考えを巡らせる事もあった。
けれども、現代に残してきた事を考えるよりも、早くこの大正時代の生活に慣れる事、目の前の事を処理する事で精一杯だった。
放り出されてしまえば、この世界は私にとっては現実なのだ。何もしなくてもお腹は空くし、怪我をすれば痛みも感じるのだ。
それに、突然この世界に来てしまったのだから、なるようにしかならない、という考えも大きく影響していたのだろう。
早く慣れなければ、という気持ちばかりが先行し、どうにかして戻りたいというような気持ちにはならなかったし、戻るために足掻こうとも思わなかった。
だけど、そんな自分の考え方が、何ヵ月か経ち、自分自身に牙を剥いてきたかもしれない。
できるだけ考えないようにしていたが、現代での私の存在がなくなりつつあるのかもしれないという、事実が私に突き刺さる。
漠然と、この世界に紛れ込んだ事で、世界の理に影響をしてしまっているのかもしれないと思う。
それを裏付けるかのように、最近は夫や子ども達の顔をを思い出そうとしても、靄がかかってすぐに思い出せなくなっているのだ。
今までは、それを現実として捉えたくなくて、その事が浮かんでも、何とか自分で蓋をしていた。
でも、そろそろ覚悟を決めないといけないかもしれない。そう考えてしまうと、このまま思い出せなくなるのかもしれないという不安が、急に私に襲いかかってくる。