第21章 秋祭りを歩く
お屋敷に戻った頃には随分と日が傾き、既に薄暗くなっていた。
実弥さんは屋敷に戻ると、準備のためすぐに部屋に戻ったが、5分とかからないうちに出発となった。
本当にギリギリまで付き合ってくれていたのだと思うと、申し訳ない気持ちと、すごく嬉しいという気持ちが汲み上げる。
「実弥さん、行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
「あぁ。行ってくる。今日はさっさと寝とけよォ」
そう言いながら、実弥さんの手が子どもをあやすかのように、ポンポンと優しく乗せられる。いつもと違う行動に心臓がドクンと跳ね、顔に熱が集まる。
そんな私を全く気にする様子もなく、すぐに背を向け、殺気を纏って出ていった。
やっぱり優しい人だ。それに、今日はいつもと違う実弥さんをたくさん見れた気がする。
言われた通り、明日の準備はそこそこに、お風呂に入り就寝準備を終え、部屋で一息つく。
荷物の整理だけはと思い、少しだけ疲れで重くなった腰を上げる。
真一郎さんから貰った簪は、机の引き出しにしまい、
実弥さんから貰った風車は、使ってない花瓶に挿し、机上に置く。
かなり気が重いが、おじさんから貰った物を確認する。封筒には思った以上の金額が入っていた。今日の自分の働いた対価だと言われたけど、やっぱり多いのではないかと思う。この時代の賃金の相場は分からないのだけど。
一度貰った物を返すわけにもいかず、でもすぐに使う気にもなれず、引き出しの簪の横にそっと置く。
いつかここを出ていく時に、実弥さんへのお礼に使えばいいかもしれない。そう思ったと同時に、少しだけ胸がチクリと痛む。
この生活はいつか終わりが来る…
それが、明日なのかもしれないし、無惨を倒した後かもしれない。物語は進んでいるから、最終決戦までだとしても、もう半年あるかないか位だろう。
長くて半年…
改めて残された時間のなさを実感する。
当たり前の事なのに、今の生活が長くなるにつれ、この生活に執着してしまう自分がいる。
実弥さんの傍で生活できるというこの事実は、私にとって夢のようで、特別な時間だ。
こんなことを考えてしまう私は、どれだけ白状な人間なのだろう。