第21章 秋祭りを歩く
「ハァ?何馬鹿な事を言ってんだァ」
うん。自分でもそう思う。
この記憶の話しはできないし、悟られてもいけない。
心の中で気合いを入れ、視線を風車から実弥さんへと移す。
「そうですよね。すみません。でも、この風車、実弥さんみたいですよね。隊服の色と一緒。綺麗じゃないですか?」
実弥さんの色だ。だからこそ、記憶がフラッシュバックしたのだと思う。
「まぁ、隊服の色に似てるがァ。綺麗かどうかは、それぞれだと思うがなァ」
「赤とか黄色も素敵な色ですけどね。でも、私はこの色が好きですよ。実弥さんの色ですから」
そう言い、クルクルと回る風車にまた視線を移す。
そう言って、また風車に目を向ける。
風車だらけの視界に、実弥さんの腕が出てきたと思うと、そのままその手は風車を取った。
「オヤジ、これいくらだァ?」
そのまま屋台のおじさんにお金を払うと、私の目の前に風車を突き出す。
「ほら、これ気に入ったんだろォ。持っとけェ。ずっとここで突っ立っとく訳にもいかねえからなァ。さっさと行くぞォ」
最終的には無理やし私の手に押し込む形で、風車を受け取ることになった。
私の手に持たされた風車は、屋台と同じようにクルクルと回る。
「ありがとうございます、実弥さん。すごく嬉しいです。大事にしますね」
「勝手にしろォ」
ぶっきらぼうな返しと、ふいっと顔を逸らした実弥さんは、照れ隠しなのだと思う。
実弥さんらしくない。
だけど、実弥さんの優しさを知ると、実弥さんらしいとも思う。
実弥さんの横を歩く。
実弥さんの袖を掴んだまま。
私の手の中でクルクルと回る風車を見ながら。
「そんなに気に入ったのかァ」
実弥さんの呆れた声が降ってきて、風車から目線を上げれば、祭りの出店は目の前にはなく、人も殆どいなくなっていた。
「あれ?出店がなくなってる。えっ?いつの間にか通り過ぎてる!いや、私見てた筈なのに」
流石に人も多くてちょこちょこと目線は上げていたけど、それまでのように出店に興味を持って見ることはなかった。そんな状態だったからだろう。町中はとっくに通り過ぎていた。