第21章 秋祭りを歩く
「ありがとうございます。では、失礼します」
「何だよ、その畏まった言い方はァ」
左腕の袖を持たせてもらう。
実弥さんは呆れながらも、ふわりと優しく笑う。
うわぁ、カッコいい。
よくよく考えると、すごく恥ずかしい状況を自分で作り出したよな。大胆なお願いだったけど…こんな素敵な笑顔が見れたから、よしとしよう。
今日は色んな顔の実弥さんが見れて、すごく幸せだ。
そのまま歩き始める。
歩き始めれば、恥ずかしさなんて、どこへやら。見たことのある店や興味を引かれる店がたくさんあり、気持ちは全てそっちに持っていかれた。
興味のあるお店が見える度、フラフラと行ってしまいそうになったが、何とか離れずにすんでいた。
実弥さんもそんな私の状態が分かるのだろう。腕を引き寄せることで、我に返っていた。
そんなことを何度も繰り返し、幸子さんのお店の前を通り過ぎる。
そのまま大通りを進んだ所に、目が釘付けになった。
風車の店のようだ。
遠くからでも、色とりどりの風車がクルクルと回る景色は、また何かそこだけが違う雰囲気を醸し出しているようでもあった。
徐々に近づくにつれ、一つ一つの色が把握できるようになる。
その間もずっと、目を離すことなく、前に進んでいく。
「あっ」
たくさんの風車の中に一つだけ、深い緑の風車があった。
それを見つけた途端、その風車に呼ばれたかのように、一直線に歩み寄り、クルクルと回る風車の前に立ち尽くす。
風車…
痣…
最後の闘い…
頭の中に単行本で読んだ場面が、断片的に浮かび上がる。この物語の行方を思い出し、胸がぐっと締め付けられる。
「おいッ。ノブッ!おいッ、聞いてるのかァッ!結局離れて行ったじゃねえかァ」
「えっ?あ、本当だ。すみません。無意識でした」
実弥さんの声に我に返り、自分の意識が飛んでいた事を知る。まだ胸は苦しくて、風車に視線を向けたままでいる。
「この風車がどうしたァ?」
「ん~、何か呼ばれた気がして…」
流石に単行本の内容を思い出したとは言えず、そう答える。