第21章 秋祭りを歩く
「さっきの簪は似合わねェ。さっさと行くぞォ」
そう吐き捨てながら、大通りに出る実弥さんも、心なしか耳が赤かった気がする。
私もだけど、実弥さんも、何だかいつもと違うことばかりな気がする。
クスリと笑いながら、小走りで実弥さんの背中を追いかけ、横に並んで大通りを進む。
随分と端の方まで来ていたので、たくさんの出店を見ながら歩いていく。
「実弥さん、あの屋台は何を売ってるんですか?」
「実弥さん、あれは何ですか?」
「実弥さん、いい匂いがしますね」
さっきも通った筈だが、フワフワとした感覚だったので、殆ど覚えていない。お祭りなのに、目に入る景色はとても新鮮だった。現代で経験した祭りと似ているようで違う所も多い。
出店の種類が多く、それにお客さん達も多い。人混みに揉まれながら、何とか進んでいく。
出店に寄らなくても、見るだけ、ここにいるだけで楽しめた。
「おいおい、子どもかよ」
実弥さんは呆れながらも、あれは盆栽の屋台とかおでんを売ってるとか、私の話に一つ一つ答えてくれる。
「わぁ、キレイ。あっ!」
実弥さんに腕を掴まれる。飴細工の屋台にフラフラと行ってしまったようだ。
「おい、よそ見し過ぎだァ。お前はまた迷子になりたいのかァ?」
「すみません。でも、色々あって楽しいんですよ」
「んなこと言ってさっきは転びそうになっただろうがァ。本当にお前、フラフラと行くんだなァ」
どうしても見る方に意識が集中して、他は疎かになってしまう。
「本当にすみません。実弥さんすごく申し訳ないんですけど、この屋台が落ち着くまででいいので、実弥さんの袖の部分、持っててもいいですか?」
「ハァ?」
「いや、私、今すごく楽しくて、またフラフラ行ってしまいそうなので…」
「自覚してるのに、かァ?」
「だって、見たいと思ったら勝手に足が行っちゃうんです。今も行ったでしょ?だから、実弥さんの袖でも持ってたら、流石にそれを離してまでは行かないと思うんです。たぶん」
うん。たぶん大丈夫…なはず。
「…たぶんって、何だよ。ノブらしいっちゃ、らしいが。持つくらい聞かなくてもいい。ほら、行くぞォ」
呆れながらも了承してくれる実弥さんは、やっぱり優しい。