第21章 秋祭りを歩く
【実弥side】
「あ、実弥さん。この方達、蕎麦屋さんに行きたいみたいなんですけど。えっと、お店の名前、何でしたっけ?佐川?田川?なんでしたっけ?実弥さん、どこか知ってます?」
「ア゛ァッ?!」
谷川の蕎麦屋なら、出会い茶屋みたいな事をしてたじゃねぇか。ノブは知らないんだろう。その蕎麦屋がどんな場所か。
ドス黒い感情が全身を覆い尽くす。
地を這うような低い声で、男達を更に強く掴む。感情のまま殴り付けたい所を何とか押さえつけ、二人を睨み付けるに留まる。
「お前らァ、殺されてぇみたいだなァ」
「い、いえ。すみませんでした…」
顔面蒼白になり、逃げ出そうとする二人を腕を更に強く掴み、引き寄せる。
「こいつに二度と手を出すんじゃねェ!次見たら殺す。さっさと消え失せろォ!」
そう吐き捨て、突き放す。二人とも離した勢いで転んび、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「実弥さん、殺すなんて物騒ですよ。でもありがとうございました。助かりました」
いつもと変わらない抜けた顔で、困ったように笑う。その後、頭を下げた時に、先程あの男につけられた簪の飾りが揺れる。
ノブの変わらない仕草に安心すると共に、体を覆っていたドス黒い感情が、苛立ちに変わっていく。
「…お前なァ、分かってんのかァ?」
苛立ったまま、吐き捨てるように言う。
「はぐれてしまってごめんなさい。それと、何か怒らせてしまいましたよね?すみません。実弥さんの優しさに調子にのって、色々と待たせてしまったから、ですよね?それに、元々お祭り、来たくなかったとか、ですかね?何にしても、本当にすみませんでした」
ノブは少しだけ泣きそうな顔になりながら、途中何度も頭を下げる。その姿に俺も冷静さを取り戻す。
さっきの奴等の事で聞いたが、答えは全く噛み合ってなかった。だが、そもそもはぐれた事が原因だァ。
一つずつ片付ける必要があるなァ。
「ハァッ。苛ついていてたのは、すまん。俺も分からねぇ。何か苛ついてた。祭りもお前を待つのも、そんなに苦でもない。まぁ、ノブを置いて行ったのは、俺のせいでもある。歩く速さを考えてなかった。すまねぇ。だけどなァ、ちょっと目を離した隙に絡まれるんだよ。何で絡まれたんだァ」
そう話せば、ノブは首を傾げる。