第21章 秋祭りを歩く
【実弥side】
何なんだ、あいつはァ!呉服屋の若旦那と言ってたが、何であんなに馴れ馴れしいんだァ。
ノブもノブだァ。
あいつと言い、斉藤と言い、何であんなに近づく必要がある?
一度は落ち着いていたのに、ドロリとした感情が俺の体を蝕んでいく。
何で俺がこんなに苛つかなきゃいけねぇんだァ!
全てあいつの、ノブのせいだァ!
いつもノブに振り回される。
今日もそうだ。わざわざ仕事前に祭りなんかに来る必要もなかったんだァ。そうすりゃ、こんなに苛つくこともなかった筈だァ。
だいたい、俺がこんなに振り回される必要はない。
さっさと飯を食って、屋敷に帰って、仕事に行くかァ。
「おい、ノブ。もう飯食いに行くぞォ」
そう言い振り返ったが、ノブの姿はない。
後ろを見渡すが、どこにも見当たらない。
「クソッ!」
何でついてきてないんだァ。
今来た道を戻る。気づけば人も増えていた。
生地屋から随分離れた場所だ。時間的にはそんなに経っていない。
走っていれば、少しずつ冷静になってくる。
考え事をしていて、苛ついていて…
あいつのせいだけじゃ、ねえな。
何て失態だァ。
人の波を掻き分け、生地屋までの道を戻る。だが、ノブに会うことなく、生地屋が見える場所まで戻ってきてしまった。
「本当に迷子かよ。あり得ねえだろォ。真っ直ぐしか進んでねぇぞォ」
道を外れ脇道で、爽籟を呼ぶ。
「すまない、爽籟。ノブとはぐれた。探してくれ」
「分カッタ」
脇道を中心に探していれば、すぐに爽籟が戻ってきた。
「見ツケタ。ツイテ来イ」
探していた脇道とは反対側の脇道に入っていく。少し走れば、すぐにノブは見つかった。二人の男に囲まれている。
「チィッ!」
そう吐き捨てると、一気に速度を上げる。
ノブを囲んでいる男達の腕を掴む。
「オイッ!何してんだァ」
男達は驚いたように俺を見る。俺を見るなり、顔が強ばっていく。
対称的にノブは馬鹿みたいな間抜けな顔で、困ったように笑いながら、俺に尋ねてきた。