第21章 秋祭りを歩く
頭の中は軽くパニックだ。
勇一郎さんから贈り物を貰う意味が全く分からない。いくらお得意さんの蜜璃ちゃんとお店に行ったとはいえ、買うのは幸子さんの店だ。私に営業かけても何の得にもならないのに。
益々貰う意味がわからない。
「いやいや、勇一郎さん。貰えませんて!似合ってもないですし。貰う理由もないですから。お返しします」
まずは返さないと!そう思い、髪飾りに手を伸ばす。
だけど、勇一郎さんに腕を掴まれて、阻まれる。
「勇一郎さん、手を離してください」
何とか手を動かしてみるが、男性の力には遠く及ばない。そのまま手は下ろされる。
「それは俺が買ってノブちゃんにあげるんだから、遠慮なく貰ってよ」
勇一郎さんは私の顔を覗き込みながら、にっこりと笑う。
「いやいや、貰う理由には…」
「おい、手ェ離せェ!」
聞き慣れた声が私の言葉と重なる。
私を掴んでいた勇一郎さんの手が緩み、急いで手を引く。
声のした方を見れば、実弥さんが勇一郎さんの腕を掴み、ものすごい形相で睨んでいる。それに鬼狩りに行くかのような殺気も纏っている。
だけど、勇一郎さんも眉間にかなり皺を寄せ、実弥さんを睨んでいる。
ある意味一触即発状態なのでは…と別の意味で焦り始める。
「実弥さん!大丈夫です。ありがとうございます。ちょっと驚いただけですから」
パニックを起こしかけていた私にとっては、実弥さんは渡りに船だったけど、ここでトラブルを起こしてしたら駄目だ。
実弥さんの腕を掴み、離すように引っ張れば、ギロリと睨まれたが、勇一郎さんから手を離してくれた。
「おいッ!ちょっと目を離した隙に何やってんだァ」
「えっ?いやいや、何もしてませんよ~」
両手を前に出して、違うとアピールすると、勇一郎さんが助け船を出してくれた。
「君はノブちゃんの居候先の人だったよね?ノブちゃんを怒らないであげて。何もしていないよ。僕が髪飾りを贈ったんだけど、急につけたから、驚かせちゃったみたいだね。ごめんね。それとこれ、返しとくね」
髪飾りを一触りしてから、リボンを目の前に差し出された。流れるような動きに、ただ受け取るだけしかできない。
「大丈夫です。だけど、驚くので、急にするのは止めてください」
何とか紡ぎ出した言葉は、何とも薄っぺらいものだった。