第21章 秋祭りを歩く
「あれ?勇一郎さん?さっきまで幸子さんでしたよね?」
「途中で交代したんだよ。その様子じゃ、気づかなかったみたいだね」
「はい。全然。すみません」
「大丈夫だよ。それより、その二つが気に入った?」
「あ、はい。これ下さい」
「髪飾りとかはいい?見てたけど」
「髪飾りですよね!すごく可愛いんですよね。でも、実際自分がつけるかと考えると、それはない気がして。勿体ないなぁって」
「そっかぁ。これとか似合うと思うけど」
流石若旦那。商売上手だ。一つの髪飾りを、私にどうかと勧めている。
赤色の落ち着いた色合いで手の込んだ物だ。一度私も手に取った。
「すごく素敵ですよね。細かい部分も丁寧ですし」
「そうでしょ?ノブちゃんに似合うよ、これ」
「私ですか?いやいや、可愛らしすぎて、似合いませんよ。それに、使う機会がないですから。目の保養をさせていただいたので、充分ですよ。この二つを下さい」
そう言い、お金を渡す。
営業トークには乗せられません。だいたい購入しても、使う機会は全くないのだ。可愛いと手には取ったが、赤色は好きじゃない。それにあの簪の髪飾りはどう考えても若い子向きだ。
考えれば考える程、私が買うなんてあり得ないのだ。
「似合うと思うんだけどなぁ」
ポツリと呟いているのは、聞こえなかったふりをして、お釣りを待つ間も他の商品に目を向ける。
「ノブちゃん、お待たせ。はい、これお釣りね」
気づけば勇一郎さんは、販売スペースから出て、私の側に立っていた。
「ありがとうございます」
紐で軽く結ばれた二つの端切れとお釣りを受け取ると、自分の鞄にしまう。
「それと、これは俺からの贈り物」
頭の上から声がしたと思ったら、グイッと髪の毛に何か入れられた
「はい?」
顔を上げ、違和感のあった場所を触れば、髪飾りがついている。さっきまで勇一郎さんが勧めていた髪飾りがみあたらない。もしかして…
そう思った所で、勇一郎さんはにっこりと笑いながら、頭に手を伸ばす。
「それ、やっぱりノブちゃんに似合うと思うからさ、ノブちゃんにあげるよ。リボンもいいんだけどね。その髪飾り、本当に似合ってる」
スルスルという音と共に、リボンが外された。