第6章 お屋敷での生活
「お姉さん、何てお名前なんですか?」
「知らない」
「そうなんですか。お姉さんのことはいつから知ってたんですか?甘味屋さんに買いに行ってたんですか?お姉さん、おいくつですか?もしかして一目惚れですか?」
私の質問責めに観念したのか、耳まで真っ赤にした斉藤さんはポツポツと話してくれた。
たまたま買い物に来たときに店の前を通ったら、お姉さんが店先を掃除していて、一目惚れした。
でも甘味は苦手だから店には行ったことはなく、買い物に来た時店の前を通るだけ。それで一目でも見れたら良かった…と。
何だか切ない。胸がキュンとなる。
「斉藤さんの片思いですね。お姉さんと仲良くなれたらいいですよね」
「まぁそうだが…」
女はいつだって恋バナが好きだ。若い子のこんなにキュンとする恋には、何かしら手伝いをしたくなるもんだ。
「そうだ!私、甘味大好きなので、お店に通ってお姉さんと仲良くなりますね!そしたら斉藤さんにお姉さんの情報、教えてあげますよ」
「……」
「あ!斉藤さんがいる二週間、お買い物に行く時は甘味屋さんに必ず行きましょうよ!そしたら顔も覚えて貰えるし。顔を覚えて貰えれば話しもできるし、仲良くなれますよ、ねっ!」
「…そうだな。ありがとうな、ノブ」
「だって、斉藤さんにはお世話になりっぱなしだから。お役にたてるようにがんばります」
「お世話しまくってるからなぁ。その分を返してくれるなら、ずいぶんとがんばってもらわないとな」
そんなにプレッシャーを与えられても困る。
「えぇ。そんなに期待しないで下さいよ」
「ははは。まぁ二週間がんばろうぜ、ノブ」
「はいッ!がんばりましょう」
斉藤さんの恋路の応援。この世界に来て、初めて自分がすることだ。
私は何かをしてもらうばかり、与えてもらうばかりだった。私、この世界で少しでもいいから役に立ちたい。まだ今は小さなことしかできないけど、いつかは実弥さんの役に立ちたい、と強く思った。