第6章 お屋敷での生活
那田蜘蛛山の話はそれで終わり、昼からは買い物に出かける。
屋敷から少し歩くとお店が点々とあり、日々の生活はそこで十分事足りるようだった。
そこでふと思い出す。
「斉藤さん、甘味屋さんはないんですか?」
「もう少し先にあるぞ。行くか?」
「はいッ!」
何だかやけにすんなりだ。斉藤さんのことだから、何故だとか必要ないとか言いそうだと思ったけど。
少し歩くと、甘い香りが漂ってきた。
もう匂いだけで幸せになれる。
赤い暖簾をくぐる。店の中は更にあんこのいい匂いが充満していた。大きく息を吸い込む。
「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」
看板娘であろう、可愛らしい女性が笑顔で迎えてくれる。斉藤さんの顔が若干赤くなっている。
あ、さっきの違和感は、これだな。
横目でニヤニヤしながら斉藤さんを見ると、頭を叩かれた。
「痛いですぅ、斉藤さん」
「お前が変な顔するからだろッ!」
「ただ見ただけなのに、ひどいです」
「さっさと決めろ!」
「はぁーい」
看板娘のお姉さんから笑われてしまい、恥ずかしくなったであろう斉藤さんは、更に顔を赤くして横を向いてしまった。
「お姉さん、おはぎを三つ下さい」
「はい。少々お待ちくださいね」
待っている間、店内を見回す。こじんまりとした店内だが、所々に花が飾ってあり心地よい。それに店内でも甘味を食べることができるようだ。
落ち着いたらここで食べてみたいなぁと考えていると、お姉さんから声がかかる。
「お待たせしました。ありがとうございました」
「こちらこそ。また伺いますね」
お姉さんの可愛らしい笑顔に、間違いなく心を射抜かれている真っ赤な顔の斉藤さんを引っ張り店を出る。
「いつまで惚けているんですか?」
店の前で立ち止まったままの斉藤さんに声をかける。
「ニヤニヤするな!」
私の声で惚けたままだと気付いた斉藤さんは、焦っていた。
「いえ。あれだけ私を怒鳴りあげてた斉藤さんが、あんな風になるんだなぁと」
「うるさいッ!」
「以前から知っていたんですよね?」
「…」
「可愛らしかったですよね、お姉さん」
「……」
「お姉さんに笑われちゃいましたね」
「…うるさいッッ。お前のせいだッッ!」
耳まで真っ赤にした斉藤さんは、さっさと歩きだしてしまった。