第21章 秋祭りを歩く
「すごい!色んなお店がいっぱいですね」
「小さな子供かァ、お前はァ。興奮し過ぎだァ。見たい所、どこでも行けよォ」
「ありがとうございます。取りあえず幸子さんのお店に行きたいです」
「それならこっちの方が早い」
腕を掴まれ、脇道に逸れる。初めての道だ。
実弥さんの歩きに合わせるように、少しだけ小走りになる。
表通りは出店もあり人が多かったが、一つ脇道に逸れただけで、殆ど人はいない。
本当に近道だったのだろう。いつもより半分位の時間で到着した。
「実弥さん、天才ですね」
驚いてそう言えば、実弥さんは笑い出した。
「クククッ。これ位当たり前だ。お前がおかしいんだよ」
少しだけ意地悪だけど、少しだけ優しい笑顔は、すごく新鮮で、目が離せなくなる。
年相応…というか、これが21歳の不死川実弥の顔なのだろうか。
「何見てんだァ」
あまりにもじっと見すぎていたからだろう。眉間に皺を寄せ、睨まれる。
「いや、実弥さん、すごく優しく笑ってて。かっこよすぎて目が離せませんでした」
「んな、戯れ言ばっか言ってないで、行くなら行けよォ。俺はここにいるから、終わったら戻ってこい」
正直に答えたのに、全く取り合って貰えない。軽くデコピンされながら、流される。まぁ真面目に返されても、反応に困るから、これでいい。
「はい。行ってきます」
軽く頭を下げて、クルリと背を向け店の方に走って行く。
「こんにちは、幸子さん」
店に立っている幸子さんに挨拶する。
「あら、ノブちゃん、いらっしゃい。お手伝い終わったの?来てくれてありがとうね」
「いえいえ。ぜひ来たかったんです。幸子さん、これ素敵です~!」
生地だけではなく、布を使った小物や髪飾りも商品として売られていた。
「ありがとう。気に入ったら買ってね。あと、呉服屋で売ってる端切れも特別にこっちでも売ってるから」
「わぁ!端切れも素敵ですね。どれも可愛い。迷うなぁ。こっちもいいし…」
一人ブツブツと呟きながら、気になった商品を手にとっては戻す事を繰り返す。
結局二つ程、端切れを選んだ。一つは桃色、一つは深い青が入ったものだ。
「うん。この二つかな」
「決まったみたいだね、ノブちゃん」
幸子さんではない声に驚き、顔を上げると、勇一郎さんが立っていた。