第20章 秋祭りのお手伝い
【実弥さんside】
「ふふ。相変わらず言葉足らずですね。斉藤さんには実弥さんのその考え、ちゃんと伝わってないでしょうけど」
クスクスと笑いながら、そう呟くノブを盗み見る。
いつもの馬鹿みたいな笑い方ではなく、少しだけ大人びていて。何故か、先程の囁きの柔らかさを思い出す。
「俺のことはどうでもいい」
いつもと違う雰囲気のノブに驚いた事を気取られないように、何とか言葉を紡ぎ出す。
「良くないですよ。みんな、実弥さんのこと、誤解してるんてますから。でも斉藤さんも、これでちゃんと一歩踏み出して貰えたらいいですね」
誰に何と思われようと、俺には関係ない。俺は俺のやることを遂行するだけだァ。
「あぁ」
そう一言だけ返す。
ノブは何とも嬉しそうに笑っている。
「だいたい実弥さんは自分の事は構わなすぎですよ。いくら自分はどう思われてもいいと思っても、誤解されたままってのも、どうかと思いますよ。それに…」
また話を蒸し返しているが、俺はそれを聞き入れるつもりはない。変える必要もない。俺がそう思ってるのに、何故こんなにも俺の事を構うんだァ、こいつは。
どこか遠くを見ながら、ぶつぶつと呟くノブの声は、もう聞き取れない。だが、何かしら俺の事でも言ってるんだろう。
俺の生き方は変わらない。
鬼を殲滅する。ただ、それだけだ。
俺自身の事など、優先する事ではない。人にどう思われようと、どうでもいい。
だが、少しだけ。
ほんの少しだけだ。
ノブは俺の事を優先させようとする。
その事実が、何故だか俺の気持ちを少しだけ高揚させる。
「おい、そろそろ行くぞォ」
「はい」
しっかりと俺の目を捕えるノブは、いつも通り変わらない。
だが、そのいつもと変わらぬノブの行動は、他の奴らはしない。
いつの間にか馴れてしまったこの生温い心地よさに、少しだけ浸るのも、悪くねェと思ってしまう。
俺も、随分と生温くなったもんだと苦笑しながら、歩き出した。