第20章 秋祭りのお手伝い
【実弥さんside】
「近い!」
そう一言吐き捨てながら、掴んでいた手を離す。
斉藤に目をむければ、斉藤は言葉にならない言葉を発しただけで、顔は一気に赤くなり、固まっている。あの瞬間、何か耳打ちしていたのだろう。
「実弥さん。流石に突然引っ張られたら驚きますよ。あ、斉藤さんが固まってる」
その姿を見て、ノブはクスクスと笑う。
何がそんなに楽しいんだァ。
ドロリとしたものが、更に俺の体を蝕んでいくと共に、苛つきが増していく。
斉藤に近づき、苛いたまま言葉を吐き捨てる。
「斉藤。お前、隊やめろォ」
「………はい」
随分と間が空いたが、まぁいい。
「おい、ノブ、行くぞォ!」
そう言い、歩き始める。
「あ、はい。では、また。お先に失礼しますね。実弥さん、待ってください」
ドタバタと後ろから走ってくる音が響く。この雑踏の中でも分かるなんて、どれだけ煩いんだァ。
「もう、実弥さん。置いていかないでくださいよ」
小走りで追い付いたノブが、少しだけふて腐れたような顔で言う。
俺が悪いような言い方に苛つきが増す。
「お前が無駄話ばかりするからだァ」
「はい、すみません。それより、さっき斉藤さんに何て言ってたんですか?」
それにしても、他の奴らだと、これ以上聞いてくることもないのに、こいつは聞いてくる。そんなことを言われれば、何とも苛つきのまま吐いた言葉に、今更ながら少しだけ嫌悪感が沸いてくる。
「何でもいいだろうがァ!それより、お前こそ斉藤に何言ってたんだァ?あんなに近づかなくてもいいだろうがァ」
「え~。だって、こそこそ話ですもん。こっそり話さないと意味ないでしょ?華子さんが近くにいたし」
「こそこそ話って、何だァ。普通に言えばいいだろうがァ。あんなに近づかなくても。何をこそこそ話さなきゃならねえんだァ」
こそこそと話すなんて、俺に聞かれたくない事だったのかと、更に苛つきが増す。ドロドロとしたものが、身体中を蝕み続ける。
「実弥さん、実弥さん」
ノブが俺の左腕を引っ張る。
「アァッ!」
苛ついたまま吐き出し、睨み付ける。
だが、全く意に介さず、左腕を引っ張る。