第20章 秋祭りのお手伝い
【実弥さんside】
「…ただ?」
待てずに、大将の言葉を反芻する。
すると、少しだけ間をあけ、呟くように話し出した。
「存在がなぁ。あいつが、ふと消えそうな、そんな風に感じる時があるんだよ」
「……」
消える。
それは、俺にも思い当たる節がある。
誤魔化すことも肯定することも憚れて、黙りを決め込む。そんな俺の反応にも気にすることなく、大将は言葉を続ける。
「だからこそだ。ノブの事を頼む。しっかりと掴んでやっててくれないか?あいつが記憶を取り戻すまででいい。今日あったばかりのお前に、随分とおかしな事を頼んでるのは承知してる。
だが…ノブをずっと見てるとな、他人のような気がしないんだよ」
外に向けていた視線が俺に戻った時には、何とも優しげな、それでいて困ったような表情だった。
言った事に嘘はないのだろう。
俺である必要性は感じない。
だが、保護者というか、身元引受人であることは否めない。お館さまから頼まれていることもあって、途中で放り出す訳にもいかねえ。
「ノブの事をいつも見てやって下さってるんですね。本当に申し訳ない。俺が出来る事は限られてますし、ノブが俺にそんなに頼ってる気はしませんけど。ですが、俺も上司からも頼まれてますから、途中で放り出すつもりはありませんよ」
「それでいい。見捨てんでやってくれよ」
言葉は優しげだが、視線は鋭く俺を射抜く。有無を言わせないと言うのがひしひしと伝わる。
ノブはただのお得意さんだろうが、お得意さんだからなのな、大将にはそれとは違う思いがあるようだ。ただいつも商品を買うだけというのに。
「はい。今後もよろしくお願いします。では失礼します」
「ああ」
軽く頭を下げてから店を出れば、ノブが斉藤と大将の娘と一緒に話している。
ノブは何故か人の懐に入り込むというか、距離感の取り方が、上手い気がする。本人は意識してないのだろうがな。
あの二人とも、本当に昔からの知り合いのようだ。
何がそんなに楽しいのか、けらけらと大口を開けて笑いたが、斉藤に頭を小突かれた。また何か変な事でも言ったんだろう。