第20章 秋祭りのお手伝い
【実弥さんside】
ノブは嵐のようだ。
急に静かになった部屋に大将と二人残され、少しだけ居心地の悪さを感じる。
一息つき、大将に気になっていた事を尋ねた。
「斉藤は…どうでしょうか?使い物になりそうですか?」
「義雄か。いいぞ、あいつは。器用だしな。言われた事も難なくこなせるし。まぁ、あと一番は作ることが好きだと言うことだな。向上心があることが、この仕事で一番大事だしな」
「そうなんですね」
「今は仕事が休みの日に手伝いに来ているんだがな…できればなぁ」
「…」
大将がその後に続けたい言葉は、分かった。でも俺が言うことではないだろう。斉藤が決めることだ。
少しの間沈黙が部屋を支配したが、大将から唐突に声をかけれた。
「それと、不死川。ノブの事、頼むな」
「いや、流石に追い出しませんよ」
ノブがいた時の話の続きだろう。そう思って答えたが、違ったようだ。ノブがいた時と違って、真剣な顔で、鋭い視線が突き刺さる。
「いや、それは大丈夫だと思ってる。それより、ノブ自身の事だ。今日の事で、よく分かったが、ノブは、記憶がないからかもしれないが、自分の事を蔑ろにしがちだ。自己評価も低いだろ?」
「そうですかね?」
屋敷ではいつも煩いとしか、思い当たらない。
「生活する中じゃ気づかないか?今日はよく働いてたよ。毎年来てる者より、よく働いた。なのにだ、お礼だと袋を取り出した途端、あの驚きようだ。お礼と言っても、うちの甘味と本当に気持ち程度だ。だけど、受け取ることが悪い事のように捉えてた」
「そうですね。呼ばれたと思ったら、そんな事で、とは思いましたが…」
ぎゃあぎゃあと喚きながら呼ばれたと思ったら、そんな事だったのは、ついさっきの事だ。
「そうだろ。それにノブはお前を頼ってる。依存しすぎる面もなきしもあらずだが、記憶がねえんだ。そこは仕方ないかな、とは思う。だが、それを考慮しても、ちょっとあいつは危なっかしいと思うんだよ。掴み所がなくて、地に足がついてない。話してる事は問題ないんだ。たまに俺と変わらないような、そんな風に錯覚する事すらある。ただ…」
大将の目線が逸れ、店の出入口に視線を流す。
何か考える事でもあるのか、そこから言葉が続かない。