第20章 秋祭りのお手伝い
「何度も言わせるなァ。貰わないってなら、今日はこのまま屋敷に帰るぞォ」
眉間の皺がひどい。流石に実弥さんの堪忍袋の緒が切れそうになっている。せっかく楽しみにしている祭りまでなくなってしまったら、私の心はドン底に落ちてしまう。
「いえっ!それはダメです!」
気持ちが全面に出て、声に力が籠る。
「じゃあ、有り難く貰っとけェ!」
「はいッ!おじさん、すみません」
そのままの勢いでおじさんに向かって、少しだけ早口で言いきると、一度深く頭を下げてから紙袋と封筒を受けとった。それを見計らったかのように、私の横に実弥さんが並び立つ。
「大将、本当に今日はノブが世話になりました。最後までごねてすみません」
もう一度実弥さんの手で頭を下げられ、一緒に実弥さんも頭を下げてくれた。
その様子を見て、おじさんは笑いが止められないと言った風だ。
「クククッ。お前、名前は?」
「申し遅れました。不死川と申します。いつもノブと斉藤が世話になっているようで。ご迷惑ばかりかけてすみません」
お館さまの所でしか聞かなかった実弥さんの丁寧な言葉遣いに、話の途中だと言うことも忘れて、つい言葉が口から溢れ落ちる。
「実弥さん、お館さま以外にも丁寧な言葉、使えるんですね」
「煩いッ!」
即答され、軽くそのまま頭も叩かれる。
そんな私達のやり取りを見ていて、おじさんはとうとう笑いが堪えられなくなったらしい。
「ハハハッ!本当面白いなぁ。不死川と言ったか?お前、良い男だな」
「ありがとうございます」
「ノブ、良かったな。いい奴に拾って貰えて」
「はい。ふふ。おじさんに実弥さんを褒めてもらえるなんて、すごく嬉しいです」
本当だ。実弥さんじゃなかったら、こんなにすんなりとこの世界で生活できてなかっただろう。運が悪ければ、本当に売られてたり、死んでたかもしれない。
それにおじさんは、少しのやり取りだけど、見た目で判断することなく、実弥さんの事を見てくれた。それが嬉しい。実弥さん自身は、どうしても自分の事になると、途端にどうでも良くなる。
本当泣いた赤鬼を地で行く人だ。だからこそ、誤解されて欲しくはないと思う。
私の自己満足の為だけかもしれないけど。