第20章 秋祭りのお手伝い
「じゃあさ、一緒にお祭…」
「おい、ノブ」
勇一郎さんの言葉に、後ろから聞き慣れた声が被さる。
呼ばれた方を向けば、実弥さんが腕を組んでいた。声も不機嫌だったし、眉間に皺が寄ってるし、間違いなく機嫌は悪そうだ。
「あ、実弥さん。あ、えっと、もうそんな時間ですか?すみません。ちょっと待って貰えますか?まだ接客中で…」
「俺のことはいい。それよりさっさと仕事しろォ」
もっと何か言われるかと思ったけど、意外と優しめの言葉がかけられたことに、少しだけ拍子抜けした。
考えるより先に動くし、感情が口調や顔に出やすいけど、何だかんだで、ちゃんと理解してくれている。
「はい。ありがとうございます!あ、勇一郎さん、すみません。話が途中でしたけど…えっと、なんでしたっけ?」
ほったらかしにしていた勇一郎さんの方へ向きなおす。
「ううん。大丈夫だよ。彼は?」
「実弥さんですか?居候先の方ですよ」
「ふーん。彼が居候先の人…ノブちゃん、ありがとう。もしお祭り回るんだったら、うちの店にも顔だしてよ。母さんも待ってるから」
実弥さんを見る勇一郎さんの目が少しだけ冷たかった気がする。
まぁ、実弥さんは人受けは良くないだろう。それとは変わって、私に向けられた笑顔は爽やかで。
これが勇一郎さんという人なのだろう。
「はい。時間が許せば伺いますね。今日はたくさんありがとうございました。また買いに来てくださいね」
当たり障りのないような返事をする。
「うん。じゃあね」
「ありがとうございました~」
深く頭を下げながら言えば、頭を上げた先にはもう人に紛れてしまって勇一郎さんの姿は確認できなかった。
「はぁッ」
深く一息つく。何だか最後にどっと疲れた。