第20章 秋祭りのお手伝い
「あ!勇一郎さん。こんにちは。お久しぶりです。今日はこちらなんですか?」
幸子さんの息子で、隣町で呉服屋を営む勇一郎さん。その人が立っていた。幸子さんの生地屋で会ってから、二度程、甘味屋や生地屋でばったり会った。
「うん。朝からこっちの出店の手伝いをね。ノブちゃんが店番してるってさっき母さんから聞いて、急いで来たんだよ」
「そうなんですね。幸子さんも買って行かれましたけど、ご家族へのお土産に追加でいかがですか?」
幸子さんがたくさん買ってくれたけど、来てくれたってことは、甘味をご所望のはず。
「う~ん。ノブちゃんに勧められたら、買わないといけないよね」
「そんなことはないですけど。でも、元々ここに来たってことは、甘味を買いに来られたんでしょう。幸子さんは串団子を買われたので、お饅頭はいかがですか?お饅頭も美味しいですよ」
「うーん。買いに来たのが目的じゃあないんだけど。まぁいいや。ノブちゃん、意外と商売上手だね。じゃ、お饅頭を10個…」
「あら、ご家族の分だけでいいんですか~?」
「うっ…。じゃあやっぱり30個で…」
「ありがとうございます!これで、従業員さんからの勇一郎さんの株も更に上がりますね。準備するので、少しお待ち下さいね」
「うん。ゆっくりでいいからね」
そう言われたので、少しだけゆっくりとお饅頭を包む。いつもはお客さんを待たせてはいけないと思って、急いでいたからだ。焦らないだけでも、気持ちに余裕が出るもんだな、等と考えていたら、勇一郎さんから声をかけられた。
「ノブちゃん、その髪の毛につけてるリボン!うちで買った端切れ使ってるよね?その前掛けにも」
少し興奮しているのか、早口で声は少し跳ねている。流石、呉服屋の若旦那。端切れの量はかなり少ないが、それでも気づいたようだ。
「流石、勇一郎さん。そちらで購入した端切れで作りました」
「その前掛けは最近洋食屋とかで見る形だね。見せて貰っていい?」
エプロンに興味があるのか、販売している台に手つき、かなり前のめりになっている。このままじゃ、勇一郎さんの体重やらで、出店部分がひっくり返ってしまうかもしれない。