第20章 秋祭りのお手伝い
「あら~ノブちゃんじゃない?お手伝いしてるの?」
幸子さんはいつもと変わらない笑顔で、知った顔に私の気持ちも少し緩む。
「あー幸子さん。そうなんですよ。急遽なんですが、助っ人してます」
「そうなのね。あら、その前掛け、うちで買った生地よね?洋食屋さんで見るような感じね。落ち着いた色合いだとは思ったけど、リボンもついてて可愛いわね~」
流石に目敏い。でも、幸子さんに褒められて嬉しさが汲み上げる。
「何となく作ったんですけど、幸子さんからそういって貰えて嬉しいです。ありがとうございます」
「リボンは縫い付けてるの?」
「いえ、取り外し可能ですよ。ほら」
そう言いながらリボンを取り外し、幸子さんに見せる。
「髪を結ぶんじゃないの、本当は?」
「そうなんですけどね。どうしても私がつけるにしては可愛らしすぎて。流石に年齢的に厳しいかと思って、エプロンにつけてるんですよ」
いい生地だからと、実弥さんが似合ってるからと暗に示してくれて、舞い上がっていたが、自分は四十のおばちゃんだ。いくら見た目が若いようでも、抵抗感は強い。そもそもリボンなんて、小学生の時につけただけだ。
冷静になればなるほど、髪を結ぶなんて事はできなかった。でもせっかく可愛らしくできたリボンだから、エプロンにつけていたのだ。
「何言ってるの!年齢とか、ノブちゃんは若いんだから、つけなさい。ほら、貸して。つけてあげる」
「いやいや、無理です~」
幸子さんの圧力に屈してしまいそうになるが、手を前に出し、体でも無理なことをアピールする。
本当に勘弁して欲しい。
「今日は祭りなんだし、飾った方がいいんだから!はい。頂戴!」
腰に手を当てどんと立ち、右手を出される。有無を言わさない雰囲気に一度怯んでしまうと、従うしかない。
「…はい」
そうとしか言えなかった。年齢を重さねているだけでなく、経営者としての貫禄だ。ただの平社員だった自分は、この上司に意見するだけの知識等はない。
素直に従う。それしか選択はないのだ。
嫌々ながらの返事だが、幸子さんは嬉々としてリボンを奪い取り、私の髪の毛に結んだ。