第20章 秋祭りのお手伝い
「そう。おはぎもだし、饅頭も好きなんですけど、あんこだけ食べたいんです。でもどこもあんこだけとか売ってないし」
「おい、ノブ、無理言うな。そりゃあんこだけとか誰も買わないから売ってないだろ。そんなに欲しいならお前が作ればいい」
おじさんと話していた筈なのに、斉藤さんが横槍を入れる。
「だって作るのは自信ないし、そんなに量もいらないんです。私が食べる分だけ。でも、やっぱりあんこだけ食べたいし。だから、おじさんに聞いてるんですよ。だめなら、あんこ餅の餅なしください」
現代でも作ったと言えば、クッキーやホットケーキ、あとはチョコレートを溶かして型に入れる位しかやったことがない。元々料理は苦手な方だから、あんこなんてもっての他だ。間違いなく、小豆と砂糖を無駄遣いしてしまう。
せっかくならおいしいものが食べたい。
「結局あんこだけじゃねえかッ!」
斉藤さんから大声で突っ込まれる。眉間に皺を寄せている姿は、実弥さんのようだ。
そんな斉藤さんとは反対に、おじさんは笑いが堪えきれなくなったようだ。
「クククッ。本当ノブは面白いな。奇想天外な依頼だが、ノブはうちのお得意様だし、今日も朝から無理言って手伝って貰ってるんだ。まぁ、あんこだけ売るって言っても、どうせあんこ自体は作ってるんだ。無理じゃない。いいぞ。ノブには売ってやるよ。欲しい時は俺に言え。とはいえ、毎回は無理だぞ。あんこに余裕がある時だ」
腕を組み、得意気に言う。顔はまだ笑ったままだ。
「本当ですか?嬉しい!ありがとうございます、おじさん」
無理かとは思ったけど、取りあえず言ってみるものだ。年を重ねるにつれて、若い頃には聞けなかったことも、取りあえず聞いてみたりとできるようになった。
年齢を重ねて厚かましくなっていく。本当おばさんになったと実感する。恥ずかしさはどこに置いてきたのだろう。
「無理言ってすみません、親父さん」
何故か斉藤さんの方が低姿勢で何度もお辞儀をしている。これじゃどっちがお願いしたか、わからない。